anego・アネゴ

日本テレビ系ドラマ「anego・アネゴ」。林真理子原作。中園ミホ脚本。制作協力オフィスクレッシェンド篠原涼子主演。第九話。
沢木絵里子(ともさかりえ)は確かに被害者ではあるが、それ以上に加害者であり、割合で考えるならむしろ殆ど加害者でしかない。己の加害をもあたかも被害であるかのように言い張るから何も事実を知らない人々からは同情を買うこともできるが、その実、同情の余地など皆無であるというのがこの種の人の常套であると云えるだろう。意外に身近に存在するものだ。反面、夫の沢木翔一(加藤雅也)と不倫関係に落ちたことで絵里子の攻撃を受けている野田奈央子(篠原涼子)の側も、悲劇的な状況にあるとはいえ単純に被害者であるわけではない。不倫はよいことではないからだ。だが、翔一の問題に比べるなら奈央子の問題などは問題ではないことも判明した。そもそも絵里子の狂気を増幅させたのは翔一だし、不倫に対する絵里子の報復によって奈央子を危機に至らせたのも彼だ。己の不倫によって不倫相手に多大の被害をもたらすだろうことは先例から自明だったのだから、奈央子の危機をもたらした加害者は翔一であるとさえ云えなくもない。彼は絵里子の狂気を徒に刺激し続けて悲劇を続発しているだけだ。
黒沢明彦(赤西仁)が奈央子に結婚を申し込んだのは何故だろうか。基本的な前提として、もともと彼は奈央子に特別に深く惹かれていたということがあるだろう。結婚を考えることも元来あり得なくはなかったろう。それなのに彼が奈央子からのかつての告白に対して冷たかったのは単に彼が若いからに過ぎない。まだ早いと感じたのだ。それが一転、逆に彼から結婚を望んだ。その契機には一つには加藤博美(戸田菜穂)の厳しい忠告に動かされた面も決してないわけではないはずだが、それ以上に、今回の騒動で苦悩する奈央子の姿を見て、放ってはおけないと感じたことが大きいだろう。だが、それは不幸な女に対する同情ではない。「アネゴ」奈央子の本質が「アネゴ」ではないことを知ったことで「アネゴ」ではない奈央子その人を真剣に見詰め直した末の、結婚の決意だったに相違ない。