キムタク月九エンジン

フジテレビ系「月九」ドラマ「エンジン」。木村拓哉=キムタク主演。井上由美子脚本。第十話。
最終回を前にして、いよいよ盛り上がってきた。見所は思いのほか多かったが、一番の見所は神崎次郎(木村拓哉)に対する鳥居元一郎(堺雅人)の共感の表明にあったと云える。この二人の組み合わせがこんなにも観者を熱くするとは、実に予想以上だった。鳥居元一郎という登場人物の冷静で辛辣で堅苦しくて面白味には欠ける造形は、多分それら全てを一気に氷解させるあの一瞬のために、延々積み上げられてきたわけなのだろう。
思えば「元にい」と呼ばれるこの男、なかなか手間のかかる男ではある。子どもたちに対する次郎の大胆で率直で、やや乱暴でさえある振る舞いが自ずから子どもたちを魅了している事実に接して、彼が嫉妬の混じった驚嘆を抱いていたのは明白だった。嫉妬を抱くということは、その対象に対して否定的ではなく肯定的であることを示していよう。彼は意外に早くから次郎を認めていたように思う。でも彼はそれを否定的にしか表現しなかった。専門職業人としての誇りがそうさせたという面もあったろうし、理性が歯止めをかけたという面は無論あったろうが、恐らくは照れ隠しという面もあったに相違ない。彼は素直ではないのだ。理屈ばかり並べる堅苦しい口調がそれを物語る。そんな彼が次郎に対して「男として勝って欲しいと思う」という激励を(これまた堅苦しい形で)表現することができるようになるまでに、果たして何ヶ月を要したことだろうか。とはいえ堅苦しい男というものは、味方にするまでには苦労するかもしれないが、味方にしてしまえば、こんな頼れる味方は他にいない。次郎や水越朋美(小雪)や「風の丘」の子どもたち皆にとって今や「元にい」鳥居元一郎は強靭な協力者になったのだ。
二宮ユキエ(夏帆)と田口奈央(大平奈津美)が「風の丘」を廃園に追い込んだ近所の有閑主婦連=オバゴンズの服にタコヤキを投げつけて怒らせた件で、次郎が「武器を使うな!」と両名を叱り、自分たちで謝りにゆくよう命じたことは、一方では鳥居元一郎のこの転回の契機にもなったが、他方では菅原比呂人(青木伸輔)に対して次郎が抱く本心の表出にもなっていたと云えるだろう。二宮ユキエと田口奈央はタコヤキを武器にしたが、菅原比呂人は親の財力を武器にしたのだ。大体、この若い男は正々堂々素手で戦うということを知らないようだ。この卑怯な男の親の圧倒的な財力によって一之瀬新作(泉谷しげる)率いるチーム・イチノセが維持されている以上、流石の次郎も、尊敬する監督のため「大人」として振る舞わざるを得なかった。だが、結局は菅原比呂人自身がチーム・イチノセを裏切ったのだ。
次郎をめぐる神崎ちひろ(松下由樹)と牛久保瑛子(高島礼子)の会話も面白かった。神崎ちひろが血の繋がっていない弟に対して特別に深い愛情を抱いていることを、牛久保瑛子は見抜いていたのだ。
以上のほか物語の十全な理解のために今ここで拾い上げて確認しておくべき要素は少なくなかったが、一つ一つ書き出してゆけば限がない。