語学的な不可能性

著名な評論家、海野弘の著『ホモセクシャルの世界史』を読み始めたが、冒頭の章いきなり「〈ホモ〉ということばは〈ヒト〉を表していた」(p.11)とか出鱈目なことを書かれていて甚だ弱る。ホモセクシャルという近代語に用いられた接頭語〈ホモ〉とは古代ギリシャ語の母音幹第二変化の形容詞homoiosに由来し「似たような」「同じような」の意味であるのに対し、「人間」の意の〈ホモ〉とは古代ローマ語(ラティン語)の第三種転尾第一類の名詞homoであるから語学的に全く違う。こんな初歩的な間違いを書いては折角の大著が台無しだ。しかも、ホモセクシャルという語を敢えて「性のことのみ考える不道徳な人間」の意に曲解することで差別が正当化されたのではないか?と考えるなら、単に初歩的な誤りとして片付けられる問題ではないとさえ云えるのだ。

ホモセクシャルの世界史