義経第38話

NHK大河ドラマ義経」。滝沢秀明主演。第三十八話。
平家一門における二つの再会。一つは本三位中将平重衡細川茂樹)と池大納言平頼盛三浦浩一)の再会。もう一つは前内大臣平宗盛鶴見辰吾)・右衛門督平清宗(渡邊邦門)の父子と本三位中将の再会。ここで前内大臣が初めて反省した。敗戦の全責任が自分にあると認めて泣いたのだ。恐らく本当は前々から自責の念に苛まれていたのだろう。かの猛将、新中納言平知盛阿部寛)が生前一貫して兄を大将として立て続けたのは、弱い兄の内心の苦しみを理解していたからに相違ない。前内大臣の人間味は共感を誘うが、それはまた新中納言の大度量を改めて想起させることにもなる。
この麗しい兄弟の姿との対比において鎌倉殿源頼朝中井貴一)と源九郎判官義経滝沢秀明)との間の悲劇が強調されているのは見易い。源氏のこの兄弟間の関係を悲劇として描くためには、先週ここに書いたように、京都の貴人と関東の御家人との間の対立を描く必要がある。さもなくば鎌倉殿が単なる悪役になってしまう。悲劇とは、個人と個人との私的な対立において生じるものではなく、世界の全体の論理的な構造の必然的な展開と、その世界に位置を占める個人との間の葛藤においてこそ発生するものに他ならない。今回このドラマでは京と関東との関係が殆ど描かれてはいないので鎌倉殿の葛藤も描かれようがないのは仕方ないが、唯一、腰越の九郎義経をどう扱うのがよいか悩んでいた鎌倉殿に対して大江広元松尾貴史)があくまでも厳しく対処すべきであると進言した場面における鎌倉殿の微妙な迷いの表情のみによって、さりげないながらも描かれた。悪くはないと思った。