仮面ライダー響鬼33話

テレビ朝日系“スーパーヒーロータイム”ドラマ「仮面ライダー響鬼」。細川茂樹主演。三十三之巻 「装甲(まと)う刃」。
吉野の開発局長、小暮耕之助(布施明)は威吹鬼=イブキ(渋江譲二)について「いま風」と評し、「暖簾に腕押し」で何を云っても効かないから苦手だと述べた。なるほど。少々意外だが、従来の漠然としていたイブキの人物像がこれにより焦点を結び得るとも思える。
さて、今週の桐矢京介(D-BOYS中村優一)。下校のとき「少年」=安達明日夢栩原楽人)は彼を避けて急ぎ足に歩いたが、桐矢は追いかけ、一緒に帰ろうとした。明日夢に攻撃的な言ばかり発して傷付けてばかりの桐矢が実際には明日夢を常に気にしているのは明白だが、ここにおいて桐矢の社交性の欠如とか意地悪な性格とかの問題点にのみ気を取られてはならない。前回も書いたように、桐矢に欠点があるように明日夢にも実は欠点があり、二人は互いの持ち合わせないものをそれぞれには持ち合わせている。今回、ヒビキ(細川茂樹)に対して桐矢が「明日夢のよさがどこにあるか?」と訊いたとき、ヒビキは「大人になれば分かる」と応じたが、それは換言すれば「ガキには分からない」ということで、一人前を気取る桐矢にとって厳しい説教ではある。怜悧な桐矢は瞬時にその意味を理解したようだ。でもヒビキは桐矢を否定しない。むしろ「少年」明日夢に今まで同い年の同性の本当の友達がいなかったかに思われることを指摘した上で「少年」に少年の友達ができそうである現状を喜んだのだ。ヒビキの説教は桐矢に向けられたかに見えて実は明日夢にこそ向けられたとさえ云えなくもない。
世の中には色々な人がいて尊敬できる人もいれば再び会いたいと思える人もいる…とヒビキは語ったが、実は桐矢にとっては既に明日夢が「また会いたいなって思える人」であるかもしれない。でも明日夢はそれに応えようとはしない。無論あの桐矢の仕打ちを考えるなら当然ではあるが、それに関してはむしろ明日夢の側の「ツマラナイ」までの弱さと暗さを想起しておいてもよい。何事からも逃げてばかりいる明日夢の凡庸性や消極性の問題点は実は一之巻など物語の当初には確り丁寧に表現されていた。ところが、その後どうしたわけか忘れ去られ、結果、二十九之巻までの物語において「少年」明日夢は次第に一切の批判を免れる神聖不可侵の輝く存在に祭り上げられてしまっていた。でも徒に理想化してはならない。明日夢は普通なのだ。桐矢に対する彼の態度が物語る通りだ。桐矢を嫌悪する視聴者たちと同じく明日夢は偏狭なのだ。桐矢の登場は、物語の当初には普通に掲げられていたはずの明日夢の弱点を再提起し、永らく脱線していた物語を本筋へ戻しつつあるとさえ見てよいのかもしれない。
小暮局長に反発するトドロキ(川口真五)が明日夢の類比者であるのは云うまでもない。確かに小暮は何とも絡み辛い偏屈者であるかもしれないが、トドロキに問題があるのも事実で、本人がそれを自覚し切れていなかっただけなのだ。