喰いタンKUI-TAN第八話
日本テレビ土曜ドラマ「喰いタンKUI-TAN」。寺沢大介原作。伴一彦脚本。小西康陽音楽。主題歌=B'z「結晶」。次屋尚&山本由緒プロデューサー。和田豊彦&井下倫子協力プロデューサー。アベクカンパニー制作協力。中島悟演出。東山紀之主演。第八話「お好み焼きを食い荒らす!?」。
密室におけるドラマ。麻薬密売組織を独自の捜査で着実に追い詰めようとしていた食いしん坊の探偵KUI-TANこと高野聖也(東山紀之)と、野田涼介(森田剛)、出水京子(市川実日子)の三人は、麻薬取締官の結城(佐々木蔵之介)の陰謀か、それとも結城の名を騙る何者かの陰謀か、港に近い倉庫の一室に閉じ込められ、しかもそこには時限爆弾が仕掛けられていた。このままでは死んでしまうのを免れ得ないだろう極限状況の中で三人は互いに対する不満や疑念を云い合ったり逆に愛を語ったり。緊張感の漲らざるを得ない事態に緊張の余り緊張感のない会話を繰り広げるばかりだった三人。まるで舞台演劇のような、或いはむしろ「劇団演技者。」みたいな面白さ。
ここでの出演者が三人とも普通に「劇団演技者。」に出演してそうな顔触れである(というか森田剛は出演したことがある)ことがそうした雰囲気を濃厚に醸し出した面もあるだろうが、この軽妙でさえある面白さを凄みのあるものに転換した詩学的な力は、その後に来た悲劇的な急展開との極端な対比にあると云える。
彼らの危機を察知して現場に急行した緒方桃警部(京野ことみ)と五十嵐修稔刑事(佐野史郎)により三人が救出されたあと、爆発寸前の爆弾を急ぎ海へ投げ捨てようとした喰いタン高野聖也は転倒した勢いで爆弾諸共に水中に落ちた。直後、水上には爆破の水飛沫が上がったのだ。喰いタンは一体どうなったのだろうか?無事に生還しないのか?安否を確認するだけの理性的な余裕なんかなく、野田涼介は走った。警察署内に待機しているはずの結城に迫り、責め、真相を吐かせ、恐らくは仇をも討ちたい衝動、激情に駆られての暴走。己が結城に唆されて喰いタンの正義を疑ってしまった所為で、密室に閉じ込められ、爆破による死の危険に隣り合わせた挙句、今こうして喰いタンを失ってしまったことが許せなかったのだ。弱くて真直ぐな男の自責と悲鳴と激怒の混じる感情を演じるのは、もともと森田剛の最も得意とするところであると云えるだろう。この場面だけのために番組制作者は森田剛を起用したのではないかとさえ思えた。
他方、細部を見れば小さな笑い所が満載でもあった。このドラマにおける主役の活躍の仕方には「最後に出てきて見せ場を全て持ってゆく」という特徴があるが、そのことに主人公自身が言及してみせた。或いは民主党捏造メイル事件を想起させるような結城の偽装メイルが登場した。作品に対する世間の反応や評言を劇中の台詞にしてしまうのも、現実世界の時事を即座に取り入れてみせるのも、全てはドラマ「喰いタン」制作陣の身軽で柔軟な機知の力量の程を存分に示している。ともかくも喜劇から悲劇への急展開をも内蔵した激しいドラマは、今宵の一話で完結を見ないまま次週の最終回へ続く。こんなにも娯楽と訓戒の心地よく混じる傑作があと一話だけで終わってしまうとは惜しいが、兎に角、最後まで見届けなければならない。