橋田&石井ワールド

TBS系ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。橋田寿賀子脚本。石井ふく子プロデュース。山崎恆成演出。第八部第一話。宇津井健主演。通常は九時から一時間番組のところ初回のみ二時間の特別番組。
物語全体の大黒柱とも云うべき岡倉大吉の役を永年にわたり演じてきた「フジタク」こと藤岡琢也が肺炎のため入院したのに伴い同役を降板し、新たに宇津井健が起用された件については二月下旬に大々的に報道された通り。さて、宇津井健の岡倉大吉はどうだったか。流石に大物俳優であるだけに普通にドラマ世界に馴染んではいるが、フジタクの大吉に比較すると少々運動能力が高いというか何だか若々しい。名鑑で調べてみると宇津井健は一九三一年十月二十四日東京生で藤岡琢也は一九三〇年九月四日兵庫生だから実は一歳しか違わないのだが、下手すると十歳か二十歳か若返って見える。恐るべし!と云わざるを得ない。と云うか、このドラマの主人公は岡倉大吉だったのか。番組の公式サイトを見て初めて知った。驚いた。主演俳優が交代してしまったのだ。それでも何事もなかったかのように普通にドラマが進行してゆくという事実に逆に感動してしまう。
他方、やたら大勢の従業員を抱えているにもかかわらず何故か慢性的な人手不足に悩まされ続けてもいる大繁盛のラーメン店「幸楽」では既に一年前から経営者の小島キミ(赤木春恵)が療養のため何故か渡米中だったが、今回、代わりに登場したのはキミの命を受けてキミの代理人としてキミと交代で米国より緊急帰国した小島久子(沢田雅美)。店を支配し始めた。店の女王として君臨しつつあった小島五月(泉ピン子)は云わば玉座から引き摺り下ろされてしまった。
さて、今回から新たに参入した人物がもう一人。一級建築士の大原透(徳重聡)。宗方葉子(野村真美)の新たな仕事仲間だが、打算だけで生きるこの女が、打算で結婚した宗方直之(井上順)に対しては抱いたこともない類の特別な好意を、この男に対して抱く可能性は充分あるだろう。だが、このサワヤカな若い美男子にはどうやらマザコンの気味があると思しい。初登場の時点で既に大波乱の気配を漂わせている不穏な男だ。意外に濃い役柄になりかねないが、演じる徳重聡は二十一世紀の石原裕次郎だから流石に橋田&石井ワールドに簡単には染まりそうにない。城代正則役で多くの愛好家に親しまれている宮下裕治とは違うのだ。
徳重聡が「渡る世間は鬼ばかり」には場違いなアイドル性を漂わせているのとは対照的に、見事に場に馴染んでしまったのが本間英作役の植草克秀、菊村康史役の錦織一清、森山壮太役の長谷川純。三人ともジャニーズ。戸田司役の東新良和も加えれば四人だが、植草・錦織・長谷川の安定感には敵わない。錦織も第七部からの新規参入組なのだが、早くも馴染んでいる。壮ちゃん役の長谷川純など山下智久亀梨和也田中聖田口淳之介大倉忠義と同い年であることを忘れさせてしまう。逆に感心してしまう。