評伝ダイエットの女王・鈴木その子

日本テレビDRAMA COMPLEX「ダイエットの女王 鈴木その子」。西牟田知夫(日本テレビ)&錦信次(IVSテレビ制作)&比留間利行(IVSテレビ制作)&佐藤敦日本テレビ)プロデュース。佐伯俊道&井上登紀子脚本。武田隆ドキュメント構成。前田展宏ドキュメント演出。主題歌=ゴスペラッツ「リンダ」。監修&協力=SONOKO。古川かおり脚本協力。長沼誠(日本テレビ)監督。制作協力IVSテレビ制作
[主要な登場人物&出演者]●鈴木その子加賀まりこ)●鈴木その子二十歳代(坂下千里子)・鈴木康郎二十歳代(賀集利樹)▲山中力松(新克利)・片岡希一(デビット伊東)▲山中秀男(深水三章)・山中登美子(景山仁美)▲薮下加世子(西川峰子)・鈴木康之(忍成修吾)●山中末野(朝丘雪路)●鈴木康郎(山本圭)。
鈴木その子は世に「ダイエットの女王」とも「美白の女王」とも云われた。このドラマでは主にダイエットにおける鈴木その子の思想と実践を、その伝記を通して概観したが、「美白」の面についても軽く触れた。真相は極めて興味深い。白塗の顔に照明を当て真白な顔色を作りテレヴィに出ていたのは、鈴木式ダイエットの思想を世に普及させるため不本意ながらも受け容れていた演出だったらしいのだ。なるほど、あれもまた無理をして体を壊してゆく若者たちを救出するための活動の一環だったわけなのだ。戦後の日本におけるダイエット志向は身体の美に関する一種マニエリズモ美学の身体化であると云えるかもしれないが、鈴木その子がそれに立ち向かうにあたって拠り所にしたのは日本の古い食文化における自然主義だったと解してよいかもしれない。美容と健康のためには一日三食以上バランスよく食べることが必要であるという説の真理性は今日では証明されている。鈴木その子の「痩せたい人は食べなさい」というダイエット思想は、その細部と実践がどうあれ、概論としては真実なのだと思う。それが迷信、妄説の類として嘲笑され批判されていたという事実には驚かざるを得ない。だが、そうした戦後の数十年間の迷妄が今なお世間に残存しているのは正しいダイエット思想が普及し切れていないからだろうか。案外それだけでもないような気がする。鈴木その子は極度に痩せることを批判し極度に日焼けすることを批判したが、その根底にあるのは美容と健康についての自然主義であり、延いては不健康なダイエット自体への否定であって、しかるに批判された側にあるのは健康を犠牲にして成り立つ美への志向、云わば反自然主義、マニエリズムであって、ここには美学上の対立があったに相違ない。鈴木その子の闘いは過酷だったのだ。