旅行記四

東京滞在の四日目。JR新宿駅から渋谷駅へ。Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の古代美術展「ポンペイの輝き-古代ローマ都市最後の日」を見物。魅力的な出土品が約360点、宝飾品を中心に、生活用具や彫刻塑像、壁画のほか犠牲者たちの御遺体の型取りまで含め、狭い会場に文字通り所狭しと並べられていて見応えがあったが、中でも素晴らしかったのは「百年祭の家」と呼ばれる豪邸の中庭で噴水の蛇口として使用されていた青銅製の「革袋を持つサテュロス像」。上半身を後方に大きく曲げる姿勢を取った裸体を美麗に表現した傑作だが、展覧会図録所載の写真で見れば一つも迫力が伝わらない。それに比べれば広報用ポスターをはじめとする印刷物やグッズ等にも掲載された「メナンドロスの家」の大理石製「アポロ像」は写真で見ても少しは魅力が伝わってくるとはいえ、実物にはもっと有無を云わさない高貴な美しさがある。古代ギリシアのアルカイク時代の様式を真似た擬古趣味的な作風を示しているのが面白い。「ユリア・フェリクスの家」の「ディオニュソス信仰に関連がある事物を表した壁画」における青空の下の大理石の階段の、眩しい陽光の表現も美しい。「黄金の腕輪の家」の「シレノスとマイナスを表した楕円形の絵」における褐色の裸体の光沢と真白の裸体との対比は古代壁画では馴染みの表現だが、やはり美しい。宝飾品の中には豪華に過ぎて身に着けると肌を傷めそうな感じのものが多かったが、エメラルドの輝きが今なお失われていないのには驚いたし、兎に角一つ一つが興味深かった。六月からは東京藝術大学ルーヴル美術館蔵品による古代ギリシア美術展あり名品「ボルゲーゼのアレース」大理石像が来日するし、こうした古代ギリシア・ローマ美術展の開催が相次ぐのは喜ばしい。朝十時半頃から見始めて会場を出たのは昼一時半頃だった。さて、その後どう過ごそうか少々迷ったが、結局は上野公園に行き、東京文化財研究所で夕方五時まで色々調べものに従事。JR上野駅から神田駅を経て新宿に戻り、東急ハンズ世界堂を見物したあとホテルに戻ったが、余りにも眠かったので何時しか寝てしまい、目を覚ましたのは夜十一時頃だった。何だか今回の東京滞在は美術展を見ているかホテルで寝ているかの両極端な生活。今宵位、夜遊にも少しは出ておこうか?と思いつつも気づけば既に深夜二時半を過ぎている。