マイボス・マイヒーロー第三話

日本テレビ系。土曜ドラマ「マイ☆ボス・マイ☆ヒーロー」。
脚本:大森美香。原案:「頭師父一體」。音楽:高見優。主題歌:TOKIO「宙船(そらふね)」(ユニバーサル・ミュージック)[作詞&作曲:中島みゆき]。企画協力:明石竜二(ミレニアム・ピクチャーズ)。制作協力:トータルメディアコミュニケーション[TMC]。協力プロデューサー:小泉守&下山潤(TMC)。プロデューサー:河野英裕山本由緒日本テレビ)&山内章弘&佐藤毅(東宝)。企画:東宝。演出:佐久間紀佳。第三話。
この土曜日の夜九時という時間帯で一月から三月にかけて放送された「喰いタン」が食うことの喜びを表現したのに対し、現在放送中のこの「マイ☆ボス・マイ☆ヒーロー」は知ることの喜びを表現していて、云わば勧戒主義的「以画説法」の深みがある。だが、このドラマは学園ドラマの常として生徒間の友情や恋愛を描くドラマであり、また職員室における教師の成長を描くドラマでもある。さらには任侠「関東鋭牙会」の家族を二重の意味で描いていて、任侠ドラマであると同時にホームドラマでもある。凄いのは、それら様々な面の何れにおいても話題性、物語性あり、笑える要素も笑ませる要素もあり、しかも相互に連動し交錯してもいること。要するに素晴らしく面白いということだ。
恋愛に関して云えば、今宵までの三話を通じて恋愛と友愛との境界線を曖昧にしてきたところに妙味があると云える。それは榊真喜男(長瀬智也)に対する周囲の好意が深まり行く途上の、当の好意の側の曖昧性の表現であると同時に、否、それ以上にむしろ榊真喜男の側の感情の、理解と表出の両面にわたり深化と分化を知る前の過渡的な曖昧性の表現でもあるだろう。
なにしろ彼は二十七年間のこれまでの生において友愛も恋愛も未だ経験したことがないのだ。目付役の黒井照之(大杉漣)が、組長であり榊真喜男の父である榊喜一(市村正親)相手に述べたように、極道「関東鋭牙会」の若頭になるべき男子として生まれ育った榊真喜男には、生まれたときから何でも欲しいものが当たり前のように与えられ、従って何かを必死に愛し求める経験がなかった。
桜小路順(手越祐也)の榊真喜男に対する好意が友愛を超えて恋愛の域にまで達しているかに見えるのは、榊真喜男の側の曖昧性とも呼応して極めて絶妙なのだ。試験勉強から逃れたがる榊真喜男に対して「桜ナントカ」こと桜小路順が何時になく真剣な表情で怒ったのは、或る意味、熱烈な愛の告白に他ならなかったろう。梅村ひかり(新垣結衣)が榊真喜男に急接近し肉薄しつつあるのを桜小路順が煙たがり、不快感を隠さないのは、勝ち目のない強力な恋敵に対する警戒感と云うか殆ど劣等感の表出だろう。泣かせる。ところが、そんな弱小な桜小路順をも強敵と見ないわけにはゆかないのが真鍋和弥(田中聖)なのだ。泣かせる。
友情に関して附言すれば、星野陸生(若葉竜也)の言い分も興味深かった。彼は期末試験で学年の最下位だった榊真喜男の頭の悪さに驚き、これまで最下位の常連だった自分よりも頭の悪い人間が出現したことに感動して、榊真喜男に対し、気に入ったので自分の舎弟にしてやる!と告げた。しかし余りにも支離滅裂な言い分。要するに彼は既に榊真喜男のことを気に入っていて、友人になりたくて、でも学園内で不良の番長をやっている手前、本音を云い出せないでいるだけなのだ。
任侠ドラマとしての側面に関して云えば、「関東鋭牙会」に敵対する「熊田一家」との抗争の場に、期末試験の追試を全て終えたあとに駆け付けた榊真喜男が、最強の敵としての期末試験を相手に存分に戦い終えたあとの今の気分を「いとあはれなり!」の絶叫で表出したのが最高に面白かった。
ところで、期末試験の場面で榊真喜男の彼方に見えていた一番後ろの席の平塚隆介(武田航平)は、他の生徒たちが机の上の答案用紙に一心不乱に向かっていた中、あたかも何かを思い出そうとしているかのようだった。優等生集団の中にも格差は小さくないことをよく表していると云えるだろう。