渡る世間は鬼ばかり第三十四話

TBS系。「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。作:橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。プロデューサー:石井ふく子。演出:吉川厚志。第八部第三十四回。
野田良(前田吟)は「時代は変わった」と自分自身に云い聞かせて改心した。しかし彼に対する野田弥生(長山藍子)の不信感は決して時代の変化によって生じたわけではない。むしろ彼が己の説く道理を、法を、自ら破ってしまったことを自覚していないからに他ならない。彼は妻に対しては主婦として務めることを求め、主婦には家事の全般を担うことを求めているが、この場合の前提は、夫が一家を養うため全力で働くことにあるだろう。しかるに彼は既に家長としてのこの務めを放棄してしまったのではないか。家族のためにだけ生きるつもりはない!今後は男として夢を追求したい!とか自分勝手なことを云い出して自ら立ち上げた会社を辞して、社長業までも妻に任せ、自らは植木屋、庭師の修業を始めたのだ。云わば「亭主」と「主婦」の両方を妻に任せて自分だけ自由気侭な生を謳歌しようとしているのだから、もはや彼は家長ではあり得ない。家長を敬え!と彼がどんなに主張しようとも、そんな理不尽な命令に従わなければならない道理はない。