新番組=喰いタン2第一話

新番組。
日本テレビ系。土曜ドラマ喰いタン2 KUI-TAN 2」。第一話。
原作:寺沢大介(「イブニング」連載/講談社)。脚本:伴一彦。音楽:小西康陽。主題歌:トリオ・ザ・シャキーン「愛しのナポリタン」(ジャニーズ・エンタテイメント)。プロデューサー:次屋尚&山本由緒。協力プロデューサー:(アベクカンパニー)和田豊彦&井下倫子。制作協力:アベクカンパニー。演出:中島悟(アベクカンパニー)。
一年前の一月から三月まで全九回にわたり放送された土曜ドラマ喰いタンKUI-TAN」の続編だが、制作者も出演者も変わらなかったのが素晴らしい。強いて新しい点を挙げれば、神奈川県警横浜みなと警察署における緒方桃警部(京野ことみ)や五十嵐修稔刑事(佐野史郎)の部下として坊主頭の新米刑事、深海刑事(阿部亮平)が加わったことがあるが、番組の空気に調和し易い絶妙な人選と思う。この刑事の名前が「深海」で、水を連想させるのも一寸面白い。なぜなら彼の役を演じる阿部亮平は二〇〇四年夏のテレヴィドラマ「ウォーターボーイズ2」で魚屋三兄弟の長男を演じた人だからだ。
食いしん坊の探偵KUI-TANこと高野聖也(東山紀之)が、出水京子(市川実日子)と喧嘩別れをした野田涼介(森田剛)相手に「三本の矢」の話を説いたのも面白い。なぜなら野田涼介役を演じる森田剛は一九九七年のNHK大河ドラマ毛利元就」で毛利元就の少年時代、松寿丸を演じた人だからだ。
今宵から始まった物語は、昨年九月三十日放送の「喰いタンスペシャルin香港」から半年後の話。この半年間、高野聖也が日本を留守にしていた間に横浜の探偵事務所「ホームズ・エージェンシー」は解散していた。理由は些細なことでしかなかったが、ともかくも野田涼介と出水京子は喧嘩別れをしたのだ。そしてどうなったかと云えば、野田涼介は高価なオリゴ糖飲料の訪問販売員に転じ、出水京子は料理の勉強に励み、金田一少年=かねだはじめ少年(須賀健太)は小学六年生になり中学校受験に備える日々。
秀逸だったのは、野田涼介の二重の挫折、二重の苦悩が描かれたところ。もともと彼は探偵の仕事への誇りと情熱を胸中に抱いていて、かつてホームズ・エージェンシーに勤務していたときも何れ独立して事務所を開くことを目指し、永年コツコツ貯金に励んでいたらしい。しかし出水京子と喧嘩別れをしたことで探偵としての職を失ったあと、恐らくは生活のためだろうか、探偵の夢を諦めて、オリゴ飲料の訪問販売員になることを選び、その販売業の「本部」に命じられるまま二百万円もの貯金を費やして大量のオリゴ飲料を買い取らされたのだ。二百万円で仕入れて、全て売れば六百万円を得ることができるという儲け話ではあった。しかし彼は、それが健康によい不老長寿の飲料であると信じ込み、老いた人々にとって本当によいものだと信じ込んで売り歩いていた。ところが、高野聖也は、それがオリゴ糖なんか全く含んでいない単なる甘い味付けの水でしかないことを、飲んだだけで見破った。野田涼介は、長寿を願う人々に健康を売って幸福にして、同時に己も金を儲けているのだと思っていたのに、実は老人を騙していただけだったのだ。そのことに気付かされたときの彼の、申訳なさそうな、悲しそうな、悔しそうな顔。それは現在の己の感情、姿勢、生活への怒りと嫌悪でもあったろう。夢に向かって行動していた頃の、輝いていた自身の全てを封印しようとしていた彼の「心の扉」の鍵が解かれたのは、その瞬間だったに相違ない。
ちなみに、「心の扉の鍵を解く」というのは、二〇〇二年二月から三月にかけて放送されたNHKドラマDモード枠の最終作品、全四話の傑作ドラマ「君を見上げて」の主題に他ならない。
野田涼介の居住する室内に「探偵野郎」という映画のポスターが貼ってあるのを見て高野聖也が「役者志望ですか?」とヴォケたのは、NHK衛星第二放送「ザ少年倶楽部プレミアム」において森田剛が「芝居をやりたい」と述べたのに因んでいるのだろう。あの番組における彼のその表明に国分太一長瀬智也は驚き、感心していた。

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