大河ドラマ風林火山第十五話

NHK大河ドラマ風林火山」。原作:井上靖。脚本:大森寿美男。音楽:千住明。主演:内野聖陽。演出:東山充裕。第十五回「諏訪攻め」。
戦国時代の武将を描くドラマにおいては、軍を描く場が最も面白いのでなければならない。そうでなければドラマの主題に反しているからだ。そしてその点で、このドラマには狂いがない。今宵の話も最高に盛り上がった。
武田軍がどのように動けば諏訪頼重小日向文世)の軍がどのように動き、高遠頼継(上杉祥三)や高遠蓮峰軒(木津誠之)の軍がどのように動くことになるのか、そうした武将たちの心理、軍の論理を山本勘助内野聖陽)は知り尽くし、読み抜き、見破って、巧妙に計略を練り、用意周到に準備をしていた。しかも彼の恐ろしい謀略に対して主君がどのように反応するかをも予想した上で。ここにおいて凄いのは、主君である武田晴信市川亀治郎)が、山本勘助の謀略の全貌について殆ど見当を付けていたと思しいことだ。当初の予測に反して高遠軍がなかなか動こうとしなかったことで武田軍の陣中に動揺が生じた只中にも、晴信は、武田信繁嘉島典俊)の焦りや甘利虎泰竜雷太)の苛立ちを遮り、甘利の怒りの標的だった山本勘助に敢えて意見を求めたのだ。晴信は勘助に策があることを見抜いていたに相違ない。そして晴信が見抜いてくれることを勘助は見抜いていたに相違ない。熱い主従だ。
ここにおけるもう一人の知将は無論、あの小山田信有(田辺誠一)。勘助の策略の正しさを晴信と同じく迅速に理解し、直ちにその勢いに乗った。飯富虎昌(金田明夫)も従い、甘利は乗り遅れた。老臣、諸角虎定(加藤武)には付いて行くことさえできない有様。勘助の親分である板垣信方千葉真一)は何時も誇らしげだ。
同じ頃、諏訪家に間者として入り込んだ教来石景政(高橋和也)の活躍も素晴らしく目覚しかった。一方では諏訪軍の内部事情について板垣信方配下の伝助(有薗芳記)等を通じて武田軍へ報告しつつ、他方では諏訪の矢崎十吾郎(岡森諦)配下の平蔵(佐藤隆太)はじめとする人々に対し、武田軍の強さ、恐ろしさについて大いに喧伝することで戦意を喪失させようとしていた。実に見事な知略と演技。教来石のそうした並外れた能力を見抜き、活用することを決めたのもやはり晴信だったのだ。
諏訪家に対し和議という名の降伏を求める使者として板垣信方とともに諏訪に赴いた勘助は、そこで囚われの身の教来石景政を見出し、また彼を捕らえた平蔵とも再会した。気まずい場面であるはずだが、今や「悪鬼」と化した勘助は動じなかった。諏訪家に対し武田家は間者を差し向けたのか?との疑惑を打破するため勘助は戦友の教来石景政に敢えて刃を向けた。斬る前に諏訪頼重が止めてくれる可能性に賭けたのだろうが、たとえ賭けが外れたとしても、斬ることで事態を切り抜けることを想定していたはずだ。恐ろしい。だが、なるほど戦国とはそのような時代だったに相違ない。