大河ドラマ風林火山第二十話

NHK大河ドラマ風林火山」。原作:井上靖。脚本:大森寿美男。音楽:千住明。主演:内野聖陽。演出:磯智明。第二十回「軍師誕生」。
長窪城を攻めていた間の躑躅ヶ崎館では老臣の諸角虎定(加藤武)が何時になく重要な人事案を発議した。山本勘助内野聖陽)を武田家の軍師にしてはどうかという案だった。これまで時代の激変に戸惑うばかりだった彼が突然こんな大胆な考えを表明したのはどういうことか。二重の意があるのが表現されていた。一つには無論、彼自身が明確に述べていた通り、勘助の意見を批判し得る位置に引き摺り下ろしたいという思惑があった。これまで勘助は主君=武田晴信市川亀治郎)の私的諮問に応じて兵法に関し答申してきたから、勘助の意見が武田家臣団の前に出されるときは事実上そのまま晴信の見解として出されてきた。そうなると家臣団にはもはや反論の余地も与えられない。反論や批判の余地を作り出すためには勘助に然るべき職を与え、重臣の一員とすることで、家臣団の会議の席上、正式に意見を述べる資格を認めなければならない。晴信の口を通して勘助の考えを聴くのではなく勘助自身に考えを云わせようというわけなのだ。なるほど老臣に相応しい含蓄のある提案ではないか。しかし諸角には別の思いもあったろう。彼は勘助のこれまでの功績を今や率直に認めたに違いないのだ。勘助を軍師にすべし!という彼の発言に対する武田信繁嘉島典俊)の驚き、戸惑いの表情は、彼のこの提案がどれだけ大胆で、直ぐには受け容れ難いものであるかを物語っていた。家臣団中でも保守的で頑固だった老臣がそんなにも斬新な人事を敢えて発議したということは、その人事に相応しいだけの価値を勘助に認めたということに他ならない。甘利虎泰竜雷太)がこの人事案に反対できなかったのも面白い。勘助の力量を認めつつあったからだ。
勘助を一刻も早く自身の軍師にしたかったらしい晴信は、勘助が由布姫(柴本幸)の心を読み切れていないのを知るや、そんなことでは軍師にはできないと笑った。どうやら晴信は、姫の愛が晴信よりも勘助にこそ向かっていることを、既に見通していたようだ。
今宵は懐かしい顔が見られた。相木市兵衛(近藤芳正)は長窪城内で鮮やかに戦い、真田幸隆佐々木蔵之介)は修験者の格好で事態を静観。時代は劇的に変転しつつあるが、平蔵(佐藤隆太)が変化を拒絶するかのように武田家に対する怨念を燃やし続けているのも人間のもう一つの側面を力強く表現している。