歌姫第六話

TBS系。金曜ドラマ「歌姫」
脚本:サタケミキオ。主題歌:TOKIO青春(SEISYuN)」。制作:TBSテレビ。演出:木村政和。第六話。
土佐中村の侠客=山之内の親分(古谷一行)の、四万十太郎(長瀬智也)に対する見方は、当初から何かしら特別ではあったが、敵対心の類はなかったと見受けられていた。だからクロワッサンの松(佐藤隆太)のような子分衆が土佐清水の顔役としての太郎に対し敵意を燃やしているのに接しても、どうせ何もできるはずはない…とでも予測して構えているようなところが見て取れた。その理由が今宵、ついに明らかにされた。親分は、姪の及川美和子(小池栄子)の、戦争で行方不明のまま戦死と認定されて既に十数年を閲した夫「ゆう」が、戦前の記憶を喪失している太郎に他ならないだろうことを、初対面の瞬間から感じていたのだ。美和子を東京から土佐中村へ呼び寄せたのもそのゆえだった。そして美和子もまた、かつての「ゆうさん」と同一人物とは思えない程に荒々しい土佐の男に変わり果て、愛する妻だったはずの美和子についてさえ記憶を喪失し、美和子の姿を見ても思い出すこともなく初対面の他人として挨拶し、名も「四万十太郎」と名乗る太郎の姿を見て、そして間近に接した瞬間、それが疑いもなく、愛する「ゆうさん」その人であることを確信し得た。これだけでも充分、極めて濃厚なドラマだった。
しかし美和子の反対側には、太郎が映写技師として住み込みで働いている映画館「オリオン座」の娘、幼馴染みの岸田鈴(相武紗季)がいる。鈴が太郎への思慕を深めつつも、太郎が何時か戦前の記憶を取り戻して去り行く日も来るかもしれない不安に駆られている今、突然ここ土佐清水に現れた親分と美和子の様子を見て、鈴の母の浜子(風吹ジュン)は瞬時に事態を察した。太郎と鈴の十年間を知る浜子は、このようなときが訪れることを予感して、恐れていたのかもしれない。