歌姫第十話
TBS系。金曜ドラマ「歌姫」。
脚本:サタケミキオ。主題歌:TOKIO「青春(SEISYuN)」。制作:TBSテレビ。演出:金子文紀。第十話。
夜の断崖から海へ投身しようとしたメリー(遠山景織子)を救出したとき、落とした懐中時計を取ろうとして崖の下へ転落した四万十太郎(長瀬智也)が、岸田鈴(相武紗季)をはじめ岸田一家の必死の捜索の末、翌朝、砂浜に倒れていたのを発見され、旭日の中で目を覚ましたときの、あの目付き、あの表情はどう見ても普段の太郎とは別人だった。そして知性を滲ませた様子の彼から発せられた語は「自分は…」。この時点で、彼が既に太郎ではなく、戦前戦時の記憶を甦らせた東京帝国大学法学士「ゆうさん」こと及川勇一に他ならないのは明白だった。そして突然、大声で絶叫しながら頭を抱えて倒れ込んだ勇一。何か思い出したくもないことを思い出したのかもしれない。それは丁度クロワッサンの松(佐藤隆太)の語った原子力爆弾の悪夢のような、絶望の記憶だったろうか。
それにしても、海辺の捜索の夜、ジェームス(大倉忠義)や土佐清水の漁師たちが協力しなかったのは何故か。漁師たちは普段あんなにも太郎と親しく、ジェームスは普段あんなにも太郎と鈴を慕っていたのに。多分、岸田家に何が起きたのかを彼等は全く知らされていなかったのだろうが、そうであればメリーや岸田家の人々はどうして町の人々に支援を求めなかったのだろうか。支援を求める暇もなく捜索に走るしかなかったからか。そのように解することはできるが、やはり不思議なことではあった。捜索なら大勢でやる方が早いだろう?というのは昨夜放送「ジョシデカ!」第九話で桜華子(泉ピン子)が述べていた通りだ。隣人の顔も名も知らぬ現代の吾等であれば兎も角、あんなにも共同体の連帯の強固な過去の田舎で、あれはあり得ない。