ドリームアゲイン最終話

日本テレビ系。土曜ドラマドリーム☆アゲイン」。
脚本:渡邉睦月。主題歌:コブクロ「蒼く優しく」。協力:読売巨人軍。制作協力:アベクカンパニー。演出:中島悟。第十話=最終回。
まさか最終回の最後に至って、これ程の難問が提起されようとは想像していなかった。しかし面白い難問ではあって、このドラマには相応しかった。
小木駿介(反町隆史)の生まれ変わりとしての朝日奈孝也は、朝日奈雛(志田未来)の生命を救うために己の生命を譲ることを天国庁の田中(児玉清)に申し出た。田中はそれを直ぐには受け容れようとはしなかったが、己の夢を諦めてでも娘を救いたいと要請する小木=朝日奈の願いを聞き届け、雛を甦らせ、代わりに小木=朝日奈に永遠の死を与えた。雛の生命の再生を見届けて心置きなく天国へ旅立とうとする小木。しかし田中は、ここで真の奇跡を起こした。時間は巻き戻され、小木が天国庁の手違いで落雷によって生命を落とす直前へ着いた。重要なことは、小木が朝日奈の身体を借りて短期間の内に様々な「試練」を経験して遂げた成長を、この小木は保持していたこと。そればかりか小木=朝日奈の周囲の人々皆が小木=朝日奈と触れることで遂げた成長を、彼等もまた保持していた。
田中の力によって時間を巻き戻されて出来した新たな「過去」は、巻き戻される前までに達成された「未来」の結果に他ならないと云える。この「過去」は「未来」のあとにしか来ない。ここでは未来と過去との前後関係が逆転している。それでもなお、この「過去」もまた過去である以上、そこに生きる人々は「未来」を知らない。それどころか、この「過去」をもたらした激動の「未来」は彼等には決して訪れない。この「未来」は未来ではあり得ない。そして恐らく、あの「未来」は、田中による巻き戻しによって中断したわけだから、あのあとには続きがない。そうであれば、落雷による小木の逝去という事件から田中による巻き戻しまでの間のあの「未来」と、落雷を受けなかった小木の(あの「未来」からの結果としての)もう一つの未来とは、決して、平行して存在するもう一つ別の世界(Parallel World)の関係にあるわけではない。
さて、関連して興味深く考えさせられる問題がある。あの「未来」の当初において朝日奈と対立関係にあったはずの弁護士の菱沼司(須賀貴匡)は、この新たな「過去」においては朝日奈ファンドの顧問弁護士をつとめ、同社幹部の牛山百子(青田典子)や熊田恒人(三宅弘城)と親しくしている。しかるに菱沼の部下である二ノ宮さつき(加藤あい)は朝日奈(チョウ・テンショウ)を知らない。もちろん朝日奈の娘である雛のことを、さつきも小木も知らない。そして雛は小木の大ファン。朝日奈も同じくファンであるかもしれない。ここまではよい。不可解な問題は、中田加代(瀬川瑛子)と前田健造(渡辺哲)とが一体どのようにして出会い得たのか?という点にある。この「過去」の中田加代があの「未来」の中田加代と同じく朝日奈家で家政婦をしているのかどうかは定かではない。
ともあれ、「命懸け」という語そのままに己の生命を懸けて朝日奈の娘の生命を救うことを決意した小木=朝日奈が、窓ガラスに映った己の姿=朝日奈その人に向かって己の思いを語りかけたとき、その朝日奈が涙を浮かべた顔で感謝の意を滲ませているかに見えたのは、このドラマ独特の味わい深さをよく物語る一場面だったと云えるだろう。実によかった。