仮面ライダー電王第四十八話

テレビ朝日系。「仮面ライダー電王」。長石多可男演出。第四十八回「ウラ腹な別れ…」。
二〇〇七年一月九日。青年=桜井侑斗(所謂「桜井さん」)が湖で失踪し、彼の婚約者=野上愛理(松本若菜)が記憶を喪失した日の前日。
時空を超える電車デンライナーからその日へ降り立った野上良太郎佐藤健)やコハナ(松元環季)は、愛理の喫茶店ミルクディッパーにおいて愛理と良太郎が言い合いをしているのを盗み聞いて驚くべき真相を知った。愛理は桜井との子を宿していて、そして桜井と愛理は、将来へ希望を繋ぐはずのその「特異点」の子を匿い、時間=記憶を守るための秘策として、桜井が失踪し、愛理は記憶を失い、良太郎の記憶をも一部は消去することによってその子の存在を一端は消去しておくことを決めたと云うのだ。
現時点において、このドラマには三人の「特異点」が登場している。良太郎とハナ=コハナとカイ(石黒英雄)。「特異点」として生まれるはずであると云われた桜井と愛理の子と云うのがハナ=コハナである可能性はあるだろうか。ないとは云えないが、甚だ非合理的なことになる。ハナが良太郎の姪であるなら、良太郎との年齢差は十七八歳位と想定され、ハナは良太郎を身近に見て育ったに相違ないから、時間の改変からの影響を受けないという「特異点」の性質上、若い良太郎を良太郎その人と認識するや特別な親近感を抱いて当然ではないかと思われるが、その気配がない。
ここで一つ考えられるのは、ハナが愛理の子でありながら現時点において愛理からは生まれなかったことにされてしまっているという可能性だ。なぜなら愛理が桜井の子を宿したという歴史的な事実はカイ率いる敵イマジン等により消去され、桜井が失踪し、愛理と良太郎も懐妊の記憶を喪失している以上は、愛理は子を産まなかったことになるが、生まれるのが当然だったはずのその子は「特異点」である以上は時間の改変の影響一切を免れるから、消去されることがないからだ。要するにハナ=コハナは、生み出されることなく生まれたのだ。ゆえにハナは己の出生について何も知らない。
他方、カイこそが愛理と桜井の子であるという可能性はあるだろうか。このように想定することは大いに興味深い問題を提起する。この場合もカイは生み出されることなく生まれたことになるから、桜井や愛理や良太郎と己との関係について何も知らないとしても不思議ではない。だが、生み出されることなく生まれたという存在の仕方は極めて不条理であり、ゆえに彼はイマジン衆の拠点として利用されてしまったのかもしれない。イマジンとの共闘を決意した彼が、イマジンの軍勢を増強するため己の記憶を動員しているとすれば、彼の記憶は次第に喪失の度を深めるのみだろう(だが、それはどのような方式によるものか?「特異点」の設定に抵触しないか?)。とはいえ彼の不条理の出生を産出した主犯は彼自身でもある。不条理の度は深まるばかり。
もう一つ、軽薄な思い付きを語ることを許されたい。愛理の子がハナである場合、ハナの父が青年=桜井から少年=桜井侑斗(中村優一)へ変わる可能性はないだろうか。無論あり得ない。なぜなら少年=侑斗は本来、二〇〇七年の住人ではないからだ。だが、もし侑斗が、桜井の戻っては来ない中、全ての記憶を喪失したままの愛理と結ばれ、その結果、本来なら桜井との間に既に生まれていたはずだったにもかかわらず生み出されないままだった二人の間の子が改めて、桜井ではなく侑斗との間の子として初めて生み出され得るとすれば、その子の生年月日には数年間の時差が生じる。それがハナからコハナへの不思議な変化の原因だったとは解せないだろうか。