エジソンの母第三話

TBS系。金曜ドラマエジソンの母」。
原案:山口雅俊。脚本:大森美香。音楽:遠藤浩二。製作:ドリマックス・テレビジョン&TBS。第三話。演出:平野俊一
先週までの二話も面白かったが、今週の面白さには勢いが加わっていた気がする。
区立文部小学校1年2組担任教諭の鮎川規子(伊東美咲)は副担任の久保裕樹(細田よしひこ)とともに参加した教員研修会からの帰途、他校の佐々木則和(安田顕)等三人に誘われて居酒屋で夕食。他校の三人中二人は偶々用事があって佐々木を残して先に退出した。佐々木の狙いが鮎川と親しくなることにあるのは明白だし、鮎川も佐々木に惹かれていて、早く二人だけになりたい二人だったろうが、鮎川の隣には料理を食うことに夢中の久保。しかも佐々木の発言に鮎川が返事をしようとすると、それをあたかも遮るかのように先に返事をしてしまい、勝手に会話を楽しんでしまう久保。「空気の読めなさ」加減が面白かった。
鮎川の駄目教師振りを冷静に観察して半ば楽しんでしまっている久保の非道さとか、鮎川に厳しくも優しく接する先輩教諭の加賀見祐子(松下由樹)に対して意外に情け容赦なく接する鮎川とか、美浦博之(谷原章介)に対しても反撃を始めた鮎川とか、それぞれの人物像が明確化してきた感じがあった。青柳美月(杉田かおる)は、愛娘の青柳玲実(村中暖奈)が真面目な優等生の緑川堵馬(太田力斗)よりも奇想天外な花房賢人(清水優哉)に夢中であることを受け容れられず、賢人をあたかも「稀代のワル」みたいに敵視。その怒り方がどんどんオトナゲなくなってきているのが面白かった。
後半の授業参観の場では彼等が全員集合。小学校の道徳の教材としての童話「はしのうえのおおかみ」を用いて児童に語らせる授業だったが、ここで花房賢人が「狼は兎を食べました」と発言。驚く周囲の仲間や先生、父兄に対し、狼や熊の食生活、生態について延々解説を始めた。その堂々見事な語りよう!完全に圧倒される聴衆。久保が「詳し過ぎるよ」と嘆いていたのも絶妙だった。彼にとっては道徳の授業が台無しになったことよりも、賢人が教師顔負けの博覧強記の授業の達人であることの方が重要なのだ。確かに校長の岩井雄三(田中要次)が認める通り、賢人の授業は面白かった。
授業参観を台無しにされて今や駄目教師との判定を下された鮎川。しかし賢人の母あおい(坂井真紀)は「嫌な顔一つせず正面から向き合ってくれて」いる鮎川先生に感謝して頭を下げ礼を述べた。そう云われてみると鮎川も(偶然の産物とはいえ)立派な教師に思えてくる。対する鮎川が心の中で「もともと、こういう顔なんで」と呟いていたのも傑作だった。なるほど、そういう顔をしている。
その直後にあった一寸よい場面。校庭で転んで泣き出した女子に気付いて走り寄って、抱き起こして助けた賢人の、その抱き上げ方が、道徳の授業における「はしのうえのおおかみ」の芝居で久保の演じる「熊」が「狼」役の男子を抱き上げるときの抱き上げ方によく似ていた。授業を大混乱に陥れてそこからは何一つ学んでいないかに見えた彼が、少なくともその授業の最も大切な本質だけは確り学び取っていたことを、さり気なく描いていたと思う。