1ポンドの福音第三話

日本テレビ系。土曜ドラマ1ポンドの福音」。
原作:高橋留美子。脚本:福田雄一。音楽:井筒昭雄&川嶋可能。主題歌:KAT-TUN「LIPS」。プロデュース:河野英裕/小泉守&下山潤(TMC)。制作協力:トータルメディアコミュニケーション。第二話。演出:田中峰也。
向田ボクシングジムにおける日常生活が描かれると、その分だけ物語の面白さが増してくるように思う。あの狭くて貧しくとも熱気には満ちている場所と、そこに居住し又は出入りする人々こそが畑中耕作(亀梨和也)という人物の今日を形作っているわけだから、その描写なくしては物語自体が成り立ち難い。その意味で今回の冒頭、聖エリシオ修道院の庭における赤マフラー騒動は楽しかった。冷静な分析家のように見える石坂(高橋一生)も、ああ見えて意外に無茶なことをする奴だったのだ。もちろん分析だけでボクシングができるわけでもないから当然なのだが、その無茶さ加減があのように描かれて実に納得した。
児島(波岡一喜)はボクシング選手らしい怖い顔付きをしているが、性格も見た目のまま攻撃的だった。でも、その激情に任せた怒りの起動因は、耕作への熱い友情と、耕作の無念を吾が事として受け止める想像力、要するに優しさにあるのだ。他方、児島の怒りとは逆に耕作自身の弱さを批判した石坂の冷たさもまた児島の熱い感情と全く同じ感情に発して、しかし敢えて正反対に表されたものであるのが明白だ。耕作の失敗が今回ばかりは必然の帰結であり、彼の弱さを今回ばかりは誰も非難できないと解した上で、それでも耕作の無念を解するからこそ耕作を責めないではいられなかったのだろう。
耕作の減量を大失敗させた善彦(知念侑李)に対する上田(岡田義徳)の静かな怒りの言葉「中坊には解んねえかもしんねえけど、俺等いのち懸けてんだよ。リングに立てなきゃ生きてる意味ねえんだよ」は善彦に罪を認識させた以上に、むしろ耕作の胸に最も重く響いたようだ。上田は詩人だ。
調子よくて能天気な耕作や、柔らかな詩人のような上田、強情な分析家の石坂、乱暴者の児島に比べて堀口(石黒英雄)は一人まともで大人しいが、抱いている思いが何時でも彼等と一致していることは伝わってくる。あんな普通な感じの青年が、あの世間から隔絶した異常なまでの禁欲の空間の風変わりな人々の輪に普通に融け込んでいること自体、既にドラマティクな設定なのではないだろうか。