あしたの、喜多善男第四話

フジテレビ系(関西テレビ)。「あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜」。
原案:島田雅彦『自由死刑』。脚本:飯田譲治。音楽:小曽根真。主題歌:山崎まさよし「真夜中のBoon Boon」。第四話。演出:麻生学
前回までの三話が物語の設定を明かして土台を固めるものだったとすれば今回のは今後の激動に向けて新たな方向を見定めるものだったと見てよいだろうか。だから新たな材料が多くは呈示されなかったが、主人公=喜多善男(小日向文世)が宵町しのぶ(吉高由里子)とともに箱根の温泉旅館へ逃避行、主な舞台が一端は東京から箱根へ移ったことで物語世界の趣がこれまでとは異なり、その点で新鮮味があったとも云える。
長閑な土地へ来たことで喜多善男には改めて内省の時間が生じたのかもしれないし、また先週の第三話において鷲巣みずほ(小西真奈美)から突き付けられた厳しい言葉がそれを促したという面もあるかもしれない。時折あらわれては彼を脅かし追い詰めるもう一人の彼自身=「ネガティヴ善男」(小日向文世)の態度の変化は、むしろ彼自身の内面の変化の表出だろうか。
もっとも、このときの喜多善男とネガティヴ善男との対話の場面を、今回、尾行して来た杉本マサル(生瀬勝久)が目撃してしまった。目撃された喜多善男の姿から見るに、彼は、ネガティヴ善男を胸中の己自身として、云わば幻影として認識しているのではなく、あくまでも己とは別人のような、己からは完全に切り離された邪悪な第二の己として、云わば実体として認識しているようなのだ。どう解すべきだろうか。今後の解明を待ちたい。
杉本マサルが配下の与田良一(丸山智己)相手に語り聞かせる情報整理と推理の成果は、視聴者にとっても最善の解説、案内になり得ているが、今回、杉本のその精密な説明口調を与田が「ネタ」にしたのは、ドラマ内に設定されている解説の装置をドラマ自体が「ネタ」化して解説してみせたものに他ならない。云うなれば解説についての「メタ解説」だ。
矢代平太(松田龍平)と長谷川リカ(栗山千明)との間の違いも面白い。矢代に誘われて悪事に手を染め始めた長谷川だったが、走り始めるや立ち止まることなど考えられない長谷川とは違い、矢代は計画そのものの目的(保険金)とは別の方角の、逆に計画の妨げにもなりかけない目的地(八日後に来るべき幸福な死)をも見捨てることができないでいるらしいからだ。