鹿男あをによし第四話

フジテレビ系。ドラマ「鹿男あをによし」。
原作:万城目学鹿男あをによし』。脚本:相沢友子。音楽:佐橋俊彦。企画:中島寛朗。アソシエイトプロデュース:石原隆。プロデュース:土屋健。制作:フジテレビ&共同テレビ。第四話。演出:土方政人
このドラマでは何時も最後に盛大な見せ場があるが、今宵のは格別だった。奈良・京都・大阪の三女学館で開催する競技会「大和杯」の日、奈良女学館の小川孝信(玉木宏)率いる剣道部が、大阪女学館の剣道部を相手に苦戦を強いられていた中、副将の佐倉雅代(藤井美菜)の奮闘、そして何よりも主将の堀田イト(多部未華子)の神業のような大活躍によって奇跡の快進撃を始めたのだ。長閑な古都を舞台にした奇想天外なドラマに突如として出現した青春ドラマそのもののような展開におけるこの興奮度の高さ、熱さは、例えるなら、玉木宏を一躍有名にした映画「ウォーターボーイズ」の最終場の男子高校生シンクロ発表の場面にも比肩し得よう。
だが、もちろん見せ場は他にも多かった。
例えば、小川先生と会話をする奈良の鹿(声:山寺宏一)に同僚教諭の藤原道子綾瀬はるか)が話しかけようとした場面での、鹿と小川先生と藤原先生との三者間の遣り取りも傑作だった。
それの前段階として、小川先生を心配する藤原先生の様子も面白かった。小川先生は前回、大阪のオコノミヤキ店で藤原先生を相手に長大な告白の演説を繰り広げたが、藤原先生はその荒唐無稽な物語を、小川先生の心身の過度の疲労に起因する妄想の類と受け止めた。或る朝、学校での生活や「三角」探しに光を見出し得て機嫌のよかった小川先生は、一人、鏡に映る鹿と化した己の姿を見ながら、変な顔をしたり、変なポーズを取ったり、自身の御尻を触ったりして面白がっていたが、それを偶々目撃した藤原先生は何か、云わば「見てはならないものを見てしまった」ような反応をしていた。
藤原先生は、小川先生の疲れを癒すべく、平城京よりもさらに古い都、飛鳥への観光へ連れて行った。このとき藤原先生が「奈良のよさは鹿だけではない」と云っていたのは、あたかも鹿ばかりを面白がるこのドラマの視聴者に注意を促すかのようでもあった。
藤原先生に導かれながらの飛鳥の名所めぐりの旅は、実に素晴らしい観光案内だったと思う。今宵この番組を見て、あの古代遺跡の町へ行きたい!と願望した視聴者は少なくなかったに相違ない。
この飛鳥での夜、小川先生は、あの大阪での夜の興奮した調子からは一転、静かな落ち着いた表情で学校のこと、生徒たちのことを語りつつ、同時に己の顔が鹿になっていること(だが、それは小川先生にしか見えない)をも語った。その、病的な気配を微塵も感じさせない様子を見て藤原先生は、今度は真剣に、小川先生の云う鹿の話を信じてみようと思うに至った。しかるにその決意の現れが、人の言葉を操るその不思議な鹿と会話をしてみよう!という奇妙な行動だったのだ。
そもそも小川先生が藤原先生に鹿の話を打ち明けたこと自体、普通なら控えたい行動だろうし、藤原先生がそれを信じてみようと決意したことも、普通なら到底あり得ないことだろう。「普通はない」ことだ。二人とも変なのだと云うほかないが、そのことを最も冷静に指摘したのが鹿だったのも面白い。