鹿男あをによし第五話

フジテレビ系。ドラマ「鹿男あをによし」。
原作:万城目学鹿男あをによし』。脚本:相沢友子。音楽:佐橋俊彦。企画:中島寛朗。アソシエイトプロデュース:石原隆。プロデュース:土屋健。制作:フジテレビ&共同テレビ。第五話。演出:鈴木雅之
先週の第四話の後半、この超現実主義的でありながら好古癖の饒舌にも富んでいて長閑でもあるドラマの中に、突如として出現した熱い青春スポーツ物語。今週の第五話の前半はその流れを受けてさらに熱く熱く盛り上がった。
奈良・京都・大阪の三女学館で開催する競技会「大和杯」の剣道大会で、奈良女学館の主将として孤軍奮闘する堀田イト(多部未華子)。鹿のことも三角のことも忘れて応援する小川孝信(玉木宏)。こうした中でも「女狐」こと京都女学館の長岡美栄(柴本幸)に対して藤原道子綾瀬はるか)が対抗心を忘れることはないが、試合の熱気は学園全体を熱して全てを飲み込んでゆく。生徒たちは剣道大会の盛り上がりについて噂話をして、その噂は次第に広まり、生徒たちは皆、その会場の体育館へ集結。普段から無駄に騒々しく熱い体育教師の前村さおり(キムラ緑子)や、勝負への関心の強い教頭の小治田史明(児玉清)ばかりか、陰気な古文教師の名取良一(酒井敏也)も会場へ集ったのは無論のこと。さらにはスポーツに全く関心のない学年主任の溝口昭夫(篠井英介)までも、熱気を伝え聞く試合の様子が気になる余り、応援に駆け付け、盛大な声援を送り、負傷と疲労の堀田選手にはタオルと薬を渡し、優勝の暁には泣いて喜んだ。
この過程で、小川先生と堀田との間に、交錯する感情のドラマもあった。試合の合間の休憩の一時、孤独な戦いに疲れた堀田に対し礼を云うのみの弱気な小川先生と、そんな小川先生を叱咤し、勝ち抜いて大和杯を獲りたいのではなかったのか?と優勝への決意を改めて宣言する堀田との間の、学館の屋上での熱い遣り取りがあり、また、試合の途上には、やはり流石に体力の限界を感じつつあった堀田を「諦めるな!」と激励した何時になく熱い小川先生と、それによって決意を再び新たにした堀田との間の、約束もあった。優勝したら何でも云うことを聴く!と約束した小川先生に、堀田は「高く付きますよ」と告げたのだ。試合のあとの夜、堀田とのこの約束を果たしてあげるよう小川先生に云っていた藤原先生の優しさも、温かくてよかった。
この、どこまでも真直ぐに熱く盛り上がったドラマティクな熱血スポーツ青春ドラマの果てに、小川先生の獲得した「大和杯」=「三角」が奈良の鹿(声:山寺宏一)の云う「サンカク」=「眼」とは何の関係もなかったという結末は、何となく予想できていたとはいえ、流石に笑うしかなかった。今までの話は何だったのか?と小川先生ばかりか視聴者をも呆然とさせてしまう無茶苦茶な話ではあるが、この無茶苦茶さ加減も含めてこその傑作なドラマだと思う。
教頭のリチャードこと小治田の怪しさが、いよいよ決定的になってきた。かねて怪しげな気配を漂わせていたが、今週に至っては、藤原先生と小川先生が一緒に明日香へ行ったとの話を聞くや、明日香へ行くのを決めたのは小川先生の側だったのか否か、明日香では何かに興味を持った様子だったかどうか、銅鏡には何か反応していたかを問い質した程。彼が何か重大な秘密を握っているのは今や明白だし、秘密の鍵はどうやら明日香にあるのかもしれない…と自ずから思わせてしまうわけだが、このドラマ、一体何が起こるか予想も付かない面がある。