鹿男あをによし第六話

フジテレビ系。ドラマ「鹿男あをによし」。
原作:万城目学鹿男あをによし』。脚本:相沢友子。音楽:佐橋俊彦。企画:中島寛朗。アソシエイトプロデュース:石原隆。プロデュース:土屋健。制作:フジテレビ&共同テレビ。第六話。演出:村上正典
このドラマの前半を唐突に盛り上げた大和杯剣道大会の熱い青春スポーツ物語は先週で完結。今週からは鹿の云う「眼」を探す物語が再開した。
小川孝信(玉木宏)は何時も己の不運を嘆いているが、その「不運」に関しては実のところ彼自身に問題があるのは間違いない。彼は、京都女学館の長岡美栄(柴本幸)が特別な好意を抱いていると勝手に思い込んで一人で舞い上がっていたのだ。本当は多分、誰にでも特別な好意があるかのように振る舞う癖のある「女狐」に過ぎないのではないのか。
ともあれ、勘違いをして舞い上がっていた小川先生が、洒落た料理店で長岡先生と一緒に夕食を食う場面、小川先生が緊張の余り、ナイフとフォークで食うべく取り掛かっていた海老か何かを飛ばしてしまい、長岡先生の皿に放り込んでしまったのは傑作だった。あれでは長岡先生も食欲が失せたのではないかと心配する。
しかも小川先生が長岡先生相手に語った話と云えば、同僚で同居人の藤原道子綾瀬はるか)のことばかり。長岡先生の見る限り小川先生は殆ど何時も藤原先生と一緒に行動しているし、あれでは彼が本当に好きなのが誰なのか判らなくなってくるではないか。
他方、これまで歴史好きの変な人にしか見えなかった藤原先生が、今宵は何時になく一寸した深みを見せた。長岡先生とのデートを楽しんでいた小川先生の帰りを、嫉妬に燃えながら待っていた藤原先生は、その間、テレヴィの報道番組を見続けていた中で、最近の日本列島に頻発する不吉な地震のことや、その原因と推定されている富士山の噴火の可能性のこと、それに伴い避難所生活を強いられている人々の苦しみのことを認識していた。そしてそれを解決するための道を、神に仕える奈良の鹿により明確に示されていながら、真剣に取り組もうともしない小川先生に対し、怒りを隠さなかった。
とはいえ、この真剣な「社会的」な怒りの中にも、嫉妬の感情が混じっていないわけでもなさそうなのが面白いところではある。
藤原先生が奈良公園で鹿の群の中の一頭に目を付け、必死に延々語りかけていたところも傑作だった。どう見ても(ロボット鹿とかCG鹿ではなく)本物の鹿だったが、藤原先生の懇願の語に心なしか肯いているかに見えた。しかも、その鹿は実は神に仕える鹿(声:山寺宏一)そのものだったのだ。
藤原先生の真剣な思いに心動かされ、小川先生は京都へ、長岡先生に対し狐の使い番であるかどうかを確認すべく向かった。だが、そこで彼はどういうわけか「狐ですか?」と聞いてしまった。せめて「狐の使い番ですか?」と聞けばよいものを。ともかくも小川先生の余りにも荒唐無稽で理解不能の話は長岡先生を怒らせてしまった。しかし、どうしてあんなにも怒るのか。怒るよりは呆れる方が普通の反応だろうに。
駅で待っていた藤原先生に対し小川先生は、長岡先生が狐の使いであることは最初から判り切っていたことだったのに…とか何とか云っていたが、これはどういうことか。憧れの「マドンナ」相手に、不本意にも変なことを質問した挙句、非道く嫌われてしまったことのショックの大きさから、事実に反することを口走ってしまっただけだろうか。
ともあれ、物語は次に、堀田イト(多部未華子)の謎、その正体の解明へ突き進んでゆくのだろうか。いよいよ楽しみだ。