斉藤さん第八話

日本テレビ系。水曜ドラマ「斉藤さん」
原作:小田ゆうあ『斉藤さん』。脚本:相内美生。音楽:池頼広。主題歌:観月ありさ「ENGAGED」。企画:東宝。第八話。演出:久保田充。
斉藤全子(観月ありさ)と悉く対立してきた有閑主婦連。だが、その「ボス」と目される三上りつ子(高島礼子)がその中では唯一の、児童の保護者としての見識の持ち主であり、云わば真の意味において「政治的」と形容し得る義と言論の人であることは既に描かれてきた。そしてその「義」の点においては、有閑主婦連の番頭の位置にあって党派性と大衆性の権化のような「怪物親」候補の山本みゆき(濱田マリ)との間に、相容れないものがあることも既に明かされつつあった。むしろその一点において、三上りつ子は「斉藤さん」と変わらない。しかるに「斉藤さん」と山本みゆきとの間には共有できるものが(今のところ)見出されない。表面上の人間関係からは見えてこなかった感情と思想の本音の部分が、今回、一挙に表面化してきた。
望月正行(古田新太)が図らずも云った。かつて自分にとっての三上りつ子が、今の佐原加奈子(須藤理彩)にとっての「斉藤さん」だったことを。
この言はさらに二つのことを物語っている。(一)佐原加奈子が、父兄や市議会議員等からの圧力に屈せざるを得ない今日の状況下、児童教育者としての信念や情熱を次第に見失いつつあったのと同じように、否それ以上に、園長の望月正行も、管理職としての重責のゆえにか、今や気力も使命感も闘争心も、完全に失ってしまっていたこと。そして(二)三上りつ子も、かつての苦い経験を踏まえ、周囲との調整を心掛け、各方面との妥協点を探る穏健と慎重の日常の中で、必要以上に妥協してきたのかもしれないこと。
思うに「斉藤さん」の言動に対するこれまでの三上りつ子の嫌悪感は、実は己自身のかつての所業に対する後悔、反省から出たものだったようだ。「斉藤さん」の言動が己自身のかつての言動を想起させるからこそ、嫌悪し断罪せざるを得なかったのだろうか。それは理屈の問題であるよりは私的な感情の問題であるかもしれない。