あしたの、喜多善男第九話

フジテレビ系(関西テレビ)。「あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜」。

原案:島田雅彦『自由死刑』。脚本:飯田譲治。音楽:小曽根真。主題歌:山崎まさよし「真夜中のBoon Boon」。第九話。演出:三宅喜重
喜多善男(小日向文世)特製のカリー粉を手渡され、二ヶ月間それを寝かせたあとカリーを作って食って欲しいと告げられ、複雑な作り方まで教えられたあとの矢代平太(松田龍平)の、「喜多さん作ってくれよ」という「告白」が今宵のこのドラマを圧倒的に濃く印象付けた。
それにしても、喜多善男が母への遺書を書こうとしてどうしても書けなかったところも、余りにも印象深かった。確かに、あんな状態の母を置いて世を去ることなんて到底できるものではない。だが、自ら望んで死ぬことを覚悟するというのは、そういったこと全てを捨て去る覚悟をするということではないのか。喜多善男が自らの「自由」な意思において死を決意したのではなくて何者かによって死ぬことを決められているのが、この点からも明らかだ。しかるにそれは誰か。三波貴男(今井雅之)か、それとも鷲巣みずほ(小西真奈美)か。否、むしろ案外、彼自身なのか。とはいえ彼の「ネガティヴ人格」としてのネガティヴ善男(小日向文世一人二役)が死を命じているとも思えない。なぜなら彼の「ネガティヴ」な言動は、実際には、事実関係を確と認識することを通して自身を反省し暗い過去と決別することによって新たな道へ歩を進めることに繋がるからだ。周囲の人々の言動や己自身の心の嫌な面、弱い面を確と認識して、向き合った上で前向きに進んでゆくためには、彼のネガティヴな話に耳を傾ける必要があるはずだ。ネガティヴ善男は喜多善男との会話の中で「封印した過去への扉を自ら開けようとするからこうなったのだ」という類の罵声を浴びせていたが、実に示唆的だ。幸福な死を迎えるため、消去したい程に嫌な記憶の一切を封印するため、ネガティヴ善男に押し付けたのだろうか。現時点では何とも判断し切れない。
他方、彼の周囲の人々には恐るべき激変が生じていた。喜多善男を救うために暗躍していた宵町しのぶ(吉高由里子)は、その力の源泉である東京都保険福祉局長の「小指噛めオジサン」こと館道毅(平泉成)との関係を断たれてしまった。森脇大輔(要潤)が仕組んだことであるのは明白だが、「小指噛めオジサン」との間に一体どのような取り引きがあったのか。ともあれ、この謀略が一種の「政変」を伴うらしいことも明らかで、恐らく鷲巣みずほ(小西真奈美)は失脚させられるのだろうと予測される。
鷲巣みずほの元夫の殺害について自供した男は何者だろうか。語っていることは事実なのだろうか。
宵町しのぶ、鷲巣みずほの相次ぐ失脚が何を物語るか。云うまでもなく矢代平太が鷲巣みずほから獲得するはずだった二千万円を、どこからも獲得できなくなったことを物語る。そのための道は完全に断たれてしまっている。長谷川リカ(栗山千明)はどうなることだろうか。
杉本マサル(生瀬勝久)は、相棒の与田良一(丸山智己)とともに、この謎に満ちた事件の全貌を明らかにして、喜多善男をはじめとする悲しい人々を救出することができるのだろうか。