斉藤さん第九話

日本テレビ系。水曜ドラマ「斉藤さん」。
原作：小田ゆうあ『斉藤さん』。脚本：土田英生。音楽：池頼広。主題歌：観月ありさ「ENGAGED」。企画：東宝。第九話。演出：本間美由紀。
市議会議員の柳川（加藤雅也）が収賄の容疑で逮捕され、三上りつ子（高島礼子）の夫はその贈り主として同じく逮捕された。これを受けて有閑主婦連は、予て反-三上派と目されてきた斉藤全子（観月ありさ）を新たな盟主に仰ぐべく一斉に動き始めた。「斉藤さん」の親友である真野若葉（ミムラ）や小倉奈美（北川弘美）に仲介を頼み、「斉藤さん」を囲んで「斉藤組」結成を謳う有閑主婦連。その騒動を見ていた三上りつ子は、今や孤独となった己に対し敢えて声をかけようとした「斉藤さん」に対し、回りくどい言は止めよ！この形勢逆転をもっと素直に喜んだらどうか？と意地悪に言い放って去った。しかし今宵の一話の結末までを見届けた上で云えば、三上りつ子のこの批判の言は三上りつ子その人に対して向けられる必要があったようだ。
柳川議員の令夫人、通称「柳川夫人」（高橋ひとみ）は、夫の逮捕の影響か行方不明になった吾が子、柳川正義（山田親太朗）を探すべく誰かに頼ろうにも、これまで権力者として傍若無人に振る舞ってきた報いか、頼るべき友の一人もいないことに気付かされ、辛うじて縁のある三上りつ子に頼った。三上りつ子は唯一孤立から救ってくれた山本みゆき（濱田マリ）に頼ったところ、山本みゆきは、三上りつ子を孤立させてはならないことを力説して後押しをしてくれた「斉藤さん」の力を頼った。「斉藤さん」を慕う高校生女子たちの協力あって柳川正義は孤立から救われ、家に戻ることを得た。
こうして事件が無事解決したあと。三上りつ子は「斉藤さん」と二人だけで語り合ったが、礼を云うどころか、「斉藤さん」への嫌悪感をあらためて口にした。意外な展開だったが、それが友情の言葉であるのは明白だった。三上りつ子の嫌悪感は、かつての自分自身に余りにも似た「斉藤さん」への嫌悪感であり、要するに自ら決別した昔日の己の率直な正義感に対する複雑な思いに他ならなかった。逆に云えば、二人は真に理解し合える同志であり得るのだ。そして三上りつ子は、「斉藤さん」自身にも実は家庭生活に関して悩みがあるのではないのかを訊ねた。見抜いたのだ。その含意は、もし悩みがあるなら相談に乗りたいという思いの告白だろう。そして「斉藤さん」が家に帰るため去ろうとしたとき、その背後で、とても小さな声で、「ありがとう」とだけ呟いて、あたかも風のように去った。
回りくどい言は止めよ！もっと素直に喜んだらどうか？という三上りつ子の言が三上りつ子自身にこそ向けられるべきである所以がここにある。威厳に満ちて重々しく回りくどい言の奥に、深い感謝と友愛、優しさが満ちている。
ところで。どうでもよいことなのだが、「斉藤さん」の通うスポーツクラブは有閑主婦連の「斉藤組」結成の騒動の過程で少なくとも一時的には一挙に大幅な会員増加を見たわけだが、騒動の落ち着いたあと果たして会員数がどこまで激減したことか。一見イケメンなインストラクター泉温之（弓削智久）は、大勢の新会員たちに散々笑いものにされてしまっていたが、その後の無情な会員減をどう悲しんだことだろうか。心配だ。