鹿男あをによし第八話

フジテレビ系。ドラマ「鹿男あをによし」。
原作:万城目学鹿男あをによし』。脚本:相沢友子。音楽:佐橋俊彦。企画:中島寛朗。アソシエイトプロデュース:石原隆。プロデュース:土屋健。制作:フジテレビ&共同テレビ。第八話。演出:村谷嘉則。
奈良女学館教頭の「リチャード」こと小治田史明(児玉清)の巧妙な策略と絶大な影響力によって、職員室内で孤立させられた小川孝信(玉木宏)。人格者と目されている程の人物以上に恐ろしいものはない。その悪行に誰も気付かないからだ。白が黒と言い包められてしまう。
そうした苦境の中にあって藤原道子綾瀬はるか)は小川先生のため奔走した。小川先生イジメの急先鋒である前村さおり(キムラ緑子)を批判し、京都女学館の「女狐」こと長岡美栄(柴本幸)の説得にも尽力した。無論それは、特に後者に関して云えば「鹿の使い番」堀田イト(多部未華子)のためでもあるし、神の使いの鹿(声:山寺宏一)のためでもあるし、何といっても富士山噴火の危機から日本を救うためだったはずだが、長岡先生自身が藤原先生に対し「小川先生のことが好きなんですか?」との問いを発しないではいられなかったように、あの粘り強い行動力、それを支える堅固な信念の起動因が熱烈な愛にこそあるのは明らかだった。その熱さには、流石の鹿も不覚にも藤原先生に声をかけて礼を述べてしまった程だ。
加えて藤原先生の饒舌な歴史談。当人こそ気付かなかったものの、その長話の中に答えが潜んでいた。小川先生と堀田がそのことに気付くまで気付かなかったのも面白い。鹿の云う「眼」、或いは「サンカク」とは、邪馬台国卑弥呼に深い関係を有するとも云われる奇妙な考古学上の遺物「三角縁神獣鏡」のことだったのだ。
こうして舞台は、奈良市内にある独立行政法人国立文化財機構、奈良文化財研究所へ。ちなみに国立文化財機構の施設はテレヴィドラマや映画の撮影場所としてよく使用される。木村拓哉主演「華麗なる一族」をはじめ多くの映像作品で東京国立博物館の本館を目にすることができる。あの巨大美術館が国立文化財機構の首領であるのは云うまでもない。
研究所の一室。「鹿の運び番」小川先生、「鹿の使い番」堀田、「人間」藤原先生の三人組と対峙し、どこまでも人格者を演じながら真相を隠し通そうとする考古学者の小治田教頭。手に汗握る応酬が繰り広げられたが、藤原先生の小川先生への愛に基づく説得に負けた長岡先生が、小治田教頭による洗脳を脱して、ついに「狐の使い番」としてそこに駆け付けた。
小川先生の追及や長岡先生の登場によって止めを刺された「鼠の運び番」小治田教頭が「よく、ここまでたどり着きましたね」と敗北を認めた瞬間の、よい意味での(所謂)カタルシスは絶大だった。演じる俳優=児玉清としても大いに演じ甲斐のある役だったことだろう。
それにしても、世に「人格者」と目されて尊敬され信頼されている小治田教頭の裏面の、油断ならぬ恐ろしい正体を早くから指摘していたのは、小川先生や藤原先生の同僚であり同居人でもある福原重久(佐々木蔵之介)。彼の洞察力が小川先生や藤原先生を絶えず慰労し激励し続けてきたことの意味は小さくはない。どうしてあんなにも鋭いのだろうか。