橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第三話

TBS系。橋田寿賀子作「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
脚本:橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。プロデューサー:石井ふく子。演出:荒井光明。第九部第三回。
小島久子(沢田雅美)は現在四十九歳か。TBS公式サイト内の番組サイトにそう書いてある。この事実を踏まえた上で、今宵の第三話における振る舞いを思い起こせば、余りの気持ち悪さに、流石の吾等視聴者も茫然自失の状態にならざるを得ないだろう。四十九歳の妹が、五十四歳の兄の家族に「御小遣い」として十万円をネダルの図。尋常ではない。
しかるに、ここにおいて小島家ラーメン店「幸楽」の店主の小島勇(角野卓造)より店の経理を任されている長女の田口愛(吉村涼)が、出納の管理者としての立場から明晰に異見を述べて、父の妹の身勝手な要求を却下した。なるほど、仮に久子が母キミの代理人として店の「権利」の半分を所有しているとして、そのゆえに店の利益の半分を受け取る権利を有しているとしても、肝心の利益が出ていないのであれば利益の半分を渡せる法がない。あの店は何時も大繁盛で、ゆえに日々多くの利益を生じてはいるようだが、従業員への賃金や食材の費用、光熱費等の必要な経費一切を差し引くと利益が殆ど残らないらしい。
大繁盛が続く限り節約のしようもないだろう大量の食材費や、中華料理店である限り節約のしようもないはずの光熱水費は兎も角、労働力として大して役に立つとも思えない田島聖子(中島唱子)をも含めたあの大勢の従業員の人数というのは、あの店の規模には見合わない規模に達しているのではないかとさえ疑われるが、所謂「猫の手も借りたい」程の大繁盛が続いている限りは維持せざるを得ない人数であるのだろう(その人数の内訳については検討の余地があるとしても)。何れにせよ、彼等への賃金を支払ってもなお赤字にはならないわけだから、逆に考えれば、あの店が日々どれだけ大きな利益を上げているかを想像すべきであるのかもしれない。
ともかくも、田口愛による明晰な説明によって推測、了解されるのは、(1)小島家ラーメン店「幸楽」が小島勇と小島キミ=小島久子の二者を持ち主とする会社であるとしても、純利益が殆ど出ていないと計算される以上、持ち主に還元できるものが何もないこと、しかるに(2)この会社の持ち主の一員である小島勇は、同時に従業員でもあるので、持ち主としての取り分はなくとも従業員としての給与を得ることができていることだ。なるほど納得だ。
田口愛の言に説得力を感じるとは実に稀なことだが、しかも、それが小島久子の馬鹿さ加減に対する厳粛な鉄槌にもなったわけで、実に痛快だった。
小島久子の没落をさらに際立たせるかのように、山下健治(岸田敏志)も再登場した。これが最後の出番になるかもしれぬ。久子に呼び出された彼が、久子に対し語ったことは、彼の妻だった大沢光子(奥貫薫)の恐るべく巧妙な陰謀の前に、久子と彼の連合軍が大敗北を喫した顛末だった。山下健治と久子の二人で、彼の妻の光子を騙し「幸楽」の人々をも騙して築き上げた華麗なる「ケータリング」帝国は、無惨にも瓦解した挙句、一枚上手だった光子によって騙し返されて乗っ取られてしまったのだ。嗚呼、愚かな。哀れ…と云いたいところではあるが、やはり天罰としか云いようがない。