仮面ライダーキバ第十三話

東映仮面ライダーキバ」。井上敏樹脚本。田村直己演出。
第十三回「未完成-ダディ・ファイト」。
紅音也(武田航平PureBOYS])が、ついに仮面ライダーに変身。予想外の展開だったが、待望の展開でもあった。
本来なら変身できるはずもない彼が変身できてしまったのは、仮面ライダー変身用の装置「イクサ」を、次狼(松田賢二)が不覚にも落としてしまっていたのを見逃すことなく、拾って入手していたからだ。
それにしても、仮面ライダー音也の戦い方は実に気取っていて、恰好つけていて、なかなか様になっていた。とはいえ心配なのは、「イクサ」で変身した者は身体に甚大な害を被るということ。人間ではない狼男の次狼でさえ回復するまでには時間を要した。並の人間よりも頼りなさそうな音也は果たして大丈夫なのだろうか。
音也が「イクサ」を盗み出して仮面ライダーに変身してまでも次狼を倒さなければならないと考えるに至ったのは、次狼の野望を知ったからだった。次狼は、絶滅しつつあるウルフェン族の最後の一人であり、自身の生き残りだけではなく、自身の子孫を残してゆく道をも考えなければならなかった。そこで彼は、ウルフェン族の新たな母になるべき強い女として麻生ゆり(高橋優)に目をつけ、また、敵対するファンガイアを倒すため人間と手を結んだ。人間の味方を装ってファンガイアを倒しつつ、時々は自らの餌にすべく人間を襲撃して、さらに、自らの種族を残すため麻生ゆりを妻とするというのだ。これは音也には許せない企てと思われた。だから阻止すべく「イクサ」を盗んだ。そして変身後の深刻な後遺症をも恐らくは覚悟の上、自身が変身することを決意したのだ。何のためか?愛のためだろう。誰への愛か?麻生ゆりへの、そして全て(!)の人間の女たちへの。
次狼が人間の女を襲撃しようとしていた現場に現れ、何時ものように邪魔をした音也は、「おまえは化け物なんだから、化け物のメスと付き合ってろ」と云い放った。常識的な、正義に適った言い分だ。しかし次狼を決定的に苛立たせざるを得ない言でもある。なぜならウルフェン族の「メス」なんか既に絶滅してしまい、どこにもいないのだからだ。どうやって付き合えと云うのか。次狼が怒ったのは無理もない。
野心に満ちて行動的な、派手なガルル=次狼に比較すると、同じく絶滅寸前の種族の最後の一人ではあっても、美少年バッシャー=ラモン(小越勇輝)と美男子ドッガ=リキ(滝川英治)は何とも慎ましやかで健気で地味だった。ラモンは靴磨き、リキはマッサージを生業としていて、二人で小さなテントの小屋を営んで、堅実に働きながら生活していたのだ。ファンガイアに見付からないよう身を潜め、人間を襲撃することもなるべく控えて。(関係ない話だが、この男前の俳優、滝川英治が、あの大人気キャスター滝川クリステルの親戚だということを今日まで知らなかった。驚いた。滝川家は美形一族か。)私的にはできることなら二人の店の常連客になりたい。
彼等のこの話から二十二年後の、今日の話。今日において「イクサ」を所有するのは「素晴らしき青空の会」の名護啓介(加藤慶祐)。しかし彼は前回、宿敵と目する仮面ライダーキバ=紅渡(瀬戸康史D-BOYS])との直接対決に破れた。このことは彼の精神に甚大な影響を与えた。無理もない。もともとが壊れた精神の持ち主なのだから、そこにおいて辛うじて安定を保っていた根拠が無惨にも破壊されたなら、心身ともに立ち直れなくなるのは必然だろう。それでも彼は自信を取り戻そうとしたのか、悪と目する者への攻撃性をさらに強めるほかなかったようだが、その攻撃性、暴力性は既に犯罪行為でしかなかった。彼は警察に手錠をかけられ逮捕された。正義のために戦っていて、警察をも従えているつもりだった彼が、正義のため、逆に警察に捕らえられた衝撃の瞬間だったと云えるだろう。