渡る世間は鬼ばかり第七話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第七話。
岡倉大吉(宇津井健)と小宮怜子(池内淳子)との出会いは第六話の終わりにあり、第七話ではそれが運命の出会いであるかもしれないことが明らかになった。青山タキ(野村昭子)の今後の処遇が気になるところだ。
しかし今宵の一番の見所は、「一級建築士」大原葉子(野村真美)が何時の間にか人知れず零落していたことが明らかになったことだろう。何と!あのアネハ事件(耐震強度偽装事件)の煽りで収入を失っていたらしいのだ。岡倉大吉も、まさか自身の娘がアネハやオジマと似たようなことをやっていたなんて(否、やっていないらしいのだが)驚いたことだろう。
そうした苦境にあっても、年下の夫、大原透(徳重聡[石原軍団21世紀石原裕次郎])は妻への愛を見失うことなく、健気に献身的であり続けたが、対する妻は、その愛と誠意を目の当たりにして、逆に、離婚して夫を解放してやらなければならぬと感じ始めた。どういうことか?結局のところ葉子は、これまでの自由気侭な生を通じて金銭欲と性欲以上の価値を見出し得ていないのではないだろうか。だから杜撰な建築設計も手がけるし、幾度も気軽に結婚しては直ぐに離婚することを繰り返してしまう。年下の大原透に対しても、せいぜい「きみはペット」位にしか見ていないのではないか。だから、たとえ貧しくとも二人で力を合わせて生きてゆこう!という発想が出てこない。出てくる法がない。
東京大学に通う小島眞(えなりかずき)が、大井輝(大川慶吾)という少年の家庭教師として働く傍ら、その少年の姉にあたる大井貴子(清水由紀)と深い仲になり、挙句、彼等の両親である大井道隆(武岡淳一)及び直子(夏樹陽子)夫妻とも親しくなり、大井家の経営する会社「大井精機」への入社のみか大井貴子との結婚をも勧められている件。
不図思うに小島眞にこれ以上の選択肢はないのではないだろうか。なぜなら彼は東京大学経済学部の学生でありながら文章一つ満足に拵えることもできず友人の吉野杏子(渋谷飛鳥)に助けてもらっていた程のフヌケの無能なのだからだ。彼が東京大学の学生であることで母の小島五月(泉ピン子)をはじめ周囲の人々はその進路について過剰な期待をしているようだが、どこの大学を卒業しようとも、何ら活力も知識欲もなく特別な人脈があるわけでもない人間に、有望な将来なんかある道理がない。
大学において小島眞の周囲にいる同年代の若者たちは、たとえ今は普通の遊び人の軽い若者のように見えようとも、将来、官界や学界や経済界において重きをなすことになる可能性の極めて高い将来有望の人材なのだ。それなのに、彼は彼等と対等に交際しようとはしない。そのように行動する彼の心理は見易い。彼は秀でる人々とは交わりたくないのだろう。だから彼は家で年下の「受験生」野々下加津(宇野なおみ)相手に威張り散らしたり、学歴のない両親を馬鹿にしたりして過ごすのを愛する。また「現役東大生」の家庭教師として受験生たちや親たちに有難がられ拝まれるのを愛する。東京大学に合格できただけで人生の目的を達成したような気になっている情けない男なのだ。そんな人物に輝く未来がある法はない。