ハチワンダイバー第二話
フジテレビ系。土曜ドラマ「ハチワンダイバー」。
原作:柴田ヨクサル「ハチワンダイバー」(集英社ヤングジャンプコミックス刊)。脚本:古家和尚。音楽:澤野弘之。将棋監修:鈴木大介八段。協力:社団法人日本将棋連盟。プロデュース:東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:水田成英。第二話。
先週、この番組の放送時間に家を留守にしていて、帰宅後に予約録画しておいたのを見ようとしたところ、放送時間の変更(四十分も遅れての開始)の影響で冒頭三分間しか録画できていなくて見ることができなかった。そのことをここで嘆いたところ、或る方からDVDにしたものを送ってくださった。誠にありがたいこと。届いたのは昨日で、昨夜、早速それを見たが、そのあと凄まじい睡魔に襲われて、ここには何も書けなかった。ゆえに今日ここに書く。
主人公の菅田健太郎(溝端淳平)は、前回、九々八十一升(ハチワン)の将棋盤に深く潜って(ダイヴ!)将棋の理を深く遠く読み抜く技「DIVE!!」を創出した。それを彼は文字通り「必殺技」と思い込み、どんな戦いにでも応用できると思い込んでしまった。だが、それは技術ではなく実践であり、身体の技ではなく精神の技だ。早速のように彼は躓いた。
そして彼の転落は金銭の問題によって深刻化する。なにしろ彼は、かつて自らの夢だった将棋を、今や賭け将棋で生計を立てる「真剣師」として、日々の貧しい生活のための金銭を稼ぐ道具にしてしまっているからだ。
必殺技を使えば必ずや勝てる!と思い込んでいた彼は、その必殺技が思うようには発動しないことで却って焦り、逆に無惨に負け続け、そうして再び財産を失った彼は、人相の悪い(でも意外に親切な)真剣師の角田吾郎(伊達みきお[サンドウィッチマン])に「真剣師の生きる道」を伝授されたが、それは彼のかつて目指した棋士の道の高みとは正反対の道であり、経済的には彼を助けたものの精神的には追い詰めただけだった。
ここで注目すべきは、彼をさらに追い詰めた(かのように見えた)のが、アキバの受け師でありアキバのメイドでもある巨乳の中静そよ(仲里依紗)だったことだ。追い詰められた末に、自らの精神の唯一の拠り所として、かつて追い求めていた「夢」、その「夢の証」として、新進棋士奨励会の「退会駒」を見出した彼は、前回、生活と再起のため質屋に入れたその駒を買い戻すべく、角田のおかげで稼ぎ得た金を携えて質屋へ走ったが、着いたときは丁度その駒が流れた直後だった。しかも買い取ったのは選りにも選ってアキバの受け師だったのだ。アキバの受け師は、退会駒を返すための条件として、真剣師マムシ(姜暢雄)との対局に勝つことを求めたが、このマムシというのがとんでもなく恐ろしい相手だった。しかも対局の途中、マムシは彼に対し、どんな気軽な気分で真剣師になろうとも賭け将棋は賭博であり、ゆえに真剣師は犯罪者であることを宣告した。かつて夢見た棋士の高みから、単なる犯罪者への転落を、ここで彼は自覚した。挙句、絶体絶命の危機の中「DIVE!!」に成功した彼がマムシを打破した瞬間、その一千万円もの賭博の現場に警察が来て、彼もまた、容疑者として逮捕されてしまった。棋士の高みから賭博者への転落、高い夢から奈落の底への没落を、精神の上においてのみか身体の上においても深刻に痛感せざるを得ない状況に置かれたのだ。
もちろん彼をこのように追い詰めたのが、アキバの受け師の深慮によるものであるのは誰の目にも明らかだろう。覚醒させることを図ったのだ。その意味で印象深かったのは、彼の退会駒をアキバの受け師が横取りする日の前夜、彼の貧しい住居を訪ねたアキバのメイド姿の受け師が、夢を見失って疲れ切っていた彼を慰めるべく膝枕で寝かせた場面。
膝枕を勧められたときの彼の嬉しそうな表情は、このドラマにおいて数少ない彼の笑顔の一つだったと云えるだろう。このドラマの中で彼は何時も、落ち込んでいるか、嘆いているか、焦っているか、泣いているか、何れにせよ何時でも弱り切って疲れ切っている。巨乳のメイド=受け師の膝枕だけが安らかな寝顔を可能にした。