渡る世間は鬼ばかり第九話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:竹之下寛次。プロデューサー:石井ふく子。第九部第九話。
小島五月(泉ピン子)は、小島眞(えなりかずき)の大井精機への就職にも、大井家との交際にも、そして大井貴子(清水由紀)との結婚にも悉く大反対し続けていた。眞はそのことで大いに悩んだ末、ついには大井精機への就職も、大井貴子との結婚も、大井家との交際も全て断つことを決意した。この決意は彼を無力にし、あたかも引き籠りのようにした。しかるに今宵、一つの異変あり。小島家ラーメン店「幸楽」の誰一人として五月の誕生日を記憶してはいなかった中、大井貴子のみが、一ヶ月も前からの眞との約束を遂行して五月への誕生日の贈物として「豪華」な指輪を届けに来た。五月との会話における大井貴子の驚くべく丁寧な言葉遣いとその基底にある思考は、そもそも奇妙に丁寧な言葉遣いを連発するこのドラマにあってさえも、異様に響く程ではなかったかと思う。それは云わば「理想の嫁」というものの表象に他ならない。当然このことは五月の心を動かした。否、動かしたどころか、無様なまでに逆転させた。なにしろ五月は一転、眞と大井貴子との交際や結婚、大井家との交際を許したのみか、大井精機への就職さえも許したい意を宣言したのだからだ。かくも無様な心変わりがあろうか。眞が納得できる道理はない。眞は既に大井精機への就職を辞退したのだ。眞には、活力はなくとも意地だけはある。それに、眞が大井家との関係を断つと決したことを明かしたときの、五月のあの勝ち誇ったような醜い笑顔は眞の心にも強く印象付けられているに相違ない。視聴者もまたそうだ。