炎神戦隊ゴーオンジャー

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第二十三話「暴走ヒラメキ」。古怒田健志脚本。渡辺勝也監督。
害地副大臣ヒラメキメデス(声:中井和哉)はどうしてゴーオンジャーとゴーオンウイングスに勝てないのか?その答えは視聴者にとっては先週までの話で既に明らかだったが、当事者たちには認識し切れていなかったらしい。
云うまでもなく、ヒラメキメデスは機械的な計算でしか戦えないから勝てないのだ。ゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)の総合的な計算力は機械の単純な計算では処理できない複雑な計算をも処理できるし、他方、それとは正反対に、ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)の意志、気概のみに基づく行動力(「一所懸命」)はあらゆる計算を超えている。だからヒラメキメデスは勝てないのだ。
この真理に気付いたヒラメキメデスは、暫く家出状態にしていた居城ヘルガイユ宮殿へ密かに帰宅し、蛮機獣百体分ものビックリウムエナジーを自ら摂取し「出たこと勝負」の蛮機獣「デタラメデス」に変身。この作業に伴い、巨大なエネルギーが消費されたため、宮殿内では停電が発生していた。こういうところの描写が一々細かいというか庶民的な方向へ流れがちなのがこのドラマの面白いところ。停電に慌てる悪の幹部というのを、特撮ドラマでは初めて見た気がする。
今回の話で重要なのは、走輔と大翔とが互いの戦い方を認め合った点にある。大翔は今までにも幾度も、走輔の無謀なまでの「捨て身の攻撃」によって救われた局面もあったわけなので、問題は、いつ、どのような局面で最終的にそのことの意味を解し切るのかという点にあったと云える。他方、走輔の場合は、そもそも大翔の強さをよく知った上で、それでもなお自分には自分なりの戦い方しかないことをも知っていた。だから彼の場合に必要だったのは、大翔の強さを知ることではなく、むしろ己の強さこそが大翔の強さをも超え得るものであると自覚することだったのだ。
この結末に向けて物語は、意外にも、走輔が大翔の日常生活を見習おうとするところから始まった。ゴーオンジャーとゴーオンウイングスとの共闘の可能性を皆が認識した先週の話を受けて、走輔は相互理解のためには互いをよく知る必要があると考えたのだ。この意図を説明する中で「朱に交われば赤くなる」と云った走輔に、大翔は「赤いのはおまえだろ?」と返答した。
計算することを捨てたヒラメキメデス改めデタラメデスは確かに強く、ゴーオンウイングスを圧倒した。注目すべきは、彼の顔が「3!」と云うときのナベアツにどことなく似ていたこと。戦いながら「さざんが百!」等の出鱈目な計算式を叫んでいたときの声も、「思考停止斬り!」という声も「3!」みたいだった。このところ害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)と害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)と害水大臣ケガレシア(及川奈央)の三賢者が髭男爵の真似ばかりして遊んでいたから、その影響でも受けたのだろうか。「思考停止斬り!」が裏番組の二十七時間テレビ中に発表された山田ルイ53世の召使ひぐち君の新たな技「ひぐちカッター!」を心なしか連想させたのは単なる偶然によるものか、それともヒラメキメデスの見事な予測によるものなのか。
デタラメデスの産業革命も走輔の「捨て身の攻撃」によって破り去られ、双方ともに痛手を負った中、デタラメデスことヒラメキメデスは大翔に再び剣での一騎打ちを挑み、ここでも常に圧倒しつつあったが、倒れた大翔に代わり剣を受け取った走輔は、大翔のように相手の動きを読もうとしたところを大翔に遮られ、自分なりの戦い方を貫け!との助言を受け、無論その言の通り、何時もの走輔ならではの「捨て身の攻撃」を貫いてついにヒラメキメデスを打倒した。その勇敢な戦い方をゴーオングリーン城範人(碓井将大)が讃えながらからかったとき、走輔は「オレはデタラメじゃない。イケメン!…いや、一所懸命って云ってもらいたいな」と云い返した。狩野英孝か。それともイケイケイケメンパラダイスの思い出なのか。
ヒラメキメデスが敗れ去ったあとの現場に立って、ヨゴシュタインが無念の表情を浮かべていた場面は秀逸だった。彼は機械だから表情も何もないはずだが、表情を感じさせた。そして後姿の哀愁。あの見るからに恐ろしげな機械の化け物が、こんなにも敗者の悲哀と怨念の深さを感じさせるとは。しかもそこには、ともに戦いを続けてきた腹心の部下、発明家上がりの戦士に対する信頼と愛情と、その名誉ある戦死に対する追悼の意が満ちていた。「炎神戦隊ゴーオンジャー」という児童向けドラマ作品は本当によく出来ている…と再認識させた珠玉の一場面だったと思う。