炎神戦隊ゴーオンジャー二十六話

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第二十六話「恋愛カンケイ」。會川昇脚本。諸田敏監督。
題に云う「恋愛カンケイ」とは、ゴーオンイエロー楼山早輝(逢沢りな)の「相棒」炎神べアールV(声:井上美紀)がゴーオンシルバー須塔美羽(杉本有美)の「バディ」炎神ジェットラス(声:古島清孝)に対し恋心を抱いたことを指しているわけだが、これに関連して二つの恋愛カンケイも描かれた。「仮面ライダーキバ」が隅から隅まで恋の話ばかりで「仮面ライダー恋空」とでも云うほかない正体不明の状態に陥っているのに対し、このゴーオンジャーでは恋物語は時々彩りを添える程度に抑えられていて、そのことが逆に、戦いを支えるものとしての愛や恋の役割の大きさを強く印象付けるのに効果を発揮していると思える。
さて、炎神同士の恋をめぐり美羽とは意見を異にした早輝が「好きな人のこと思えば、もっとパワー出る出る!美羽にも経験ない?」と美羽に問いかけたとき、美羽が不覚にも思い浮かべたのはゴーオンジャーの兄貴分、否、若き頑固親父ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)のことだった。美羽が走輔に密かに好意を抱いていることは六月十五日放送の第十八話において既に明らかだったと思う。そのときのここでの感想文にも書いた通りだ。だが、面白いことにそのことは美羽にとっては素直に認めたくない事実だったのだ。走輔に対する恋心を素直には認めたくない美羽と、美羽の恋心には(敏感な男子であれば早めに気付き得るはずなのに)殆ど永遠に気付きそうにもない走輔。この両名の関係には今後も大いに注目してゆきたい。
他方、蛮機族ガイアークの居城ヘルガイユ宮殿では、相変わらず害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)がヒラメキメデスの喪に服していた。
ヘルガイユ宮殿が喪中に付き普段の活動を休止せざるを得ない間、害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)は、機械界から人間界へ移転していた蛮機族ガイアークの名門アレルンブラ家の騎士たちの発掘を継続。しかるに害水大臣ケガレシア(及川奈央)は気の進まない様子。有力貴族アレルンブラ家の当主としてガイアーク王国(?)における王位継承権を有するのみか一時は王位にも迫ったことのある「王子」ことニゴール(声:野島健児)を、どうやら生理的に嫌っていたのだ。
ニゴールはケガレシアの容姿の美しさ、清らかを愛して結婚を申し込んだこともあったが、ケガレシアは拒絶した。ニゴールが機械界から姿を消したのは失恋の結果の、云わば傷心旅行の類だった。そういう過去があったのだ。ガイアークにおいて「美しい」「清らか」という形容詞が最悪の侮辱の語であることは、五月十八日放送の第十四話において描かれたことがある。美を愛するということはガイアークの世界では変態性欲に他ならない。ケガレシアはそのような変態性欲の餌食になることを嫌ったわけだが、なるほど生理的に嫌うのは無理もない。
だが、ニゴールの変態性は今回さらに極まった。あろうことか、宿敵の炎神べアールVにまで恋をして、結婚を申し込み、アレルンブラ宮殿に招き入れ、かつて同じく結婚まで申し込んだことのあるケガレシアの眼前で、己の新たな変態的な恋を見せ付けた。挙句の果てに、早輝&べアールVと美羽&ジェットラスからの攻撃にあっさり惨敗したのだから無様としか云いようがない。そんなニゴールに対しケガレシアがビックリウムエナジーを渡すことなく「産業革命」の機会を許さず見殺しにしてしまったのは、何時になく非情だが、組織を支配する「大臣」としても、騎士たちから奉仕されるべき「姫」としても、最高度に冷徹に的確な判断を示したものと云ってよい。
([八月十八日の朝に附言一件]昨夜この感想文中に書くつもりだったのに迂闊にも書き忘れていたことを。アレルンブラ公ニゴールはケガレシアから冷たい仕打を受けて消えゆこうとするとき、「それでもあなたは美しい!」と叫んだ。思うに、この言は「時よとまれ君は美しい」に因んでいよう。ミュンヒェン五輪の記録映画の題名に他ならない。五輪の開催国こそドイツだが、一九七三年の米国映画。その原題は意外にも「Visions of Eight」で、この印象深い邦題は、この映画の制作に監督の一人として参加した市川崑や脚本家の一人として参加した詩人の谷川俊太郎によるものだろうか。ともかくも要するに、北京五輪開催中の放送であることを踏まえてのこの台詞だったのではないかと想像してみたいわけなのだ。)