学校じゃ教えられない!第六話

日本テレビ系。火曜ドラマ「学校じゃ教えられない!」。
脚本:遊川和彦。音楽:福島祐子&高見優。プロデューサー:大平太&桑原丈弥&井上竜太(ホリプロ)&太田雅晴(5年D組)。制作協力:ホリプロ5年D組。演出:木内健人。六限目。
もともと第一話を見たときから面白いドラマだとは思っていたが、それが勢いを増してきているし、予想を上回る力を発揮し始めてもいる。先週の五限目が当初からこのドラマに内在していた複雑な片想いの交錯の構図をついに明るみに出して物語の一つの頂点を形作ったとすれば、今週の六限目では、その構図の一角を突き崩し、辛うじて保たれていた均衡の状態を破ってみせたことで深く重苦しい動揺の可能性を生じた。しかも、当初から物語に内蔵されていたとしか云いようのない程の必然の展開において。この喜劇はその構造においては意外にも悲劇そのものではないのか。
今宵の六限目では、主として、何時も陽気で前向きな西川叶夢(森崎ウィン)と、逞しくて恋多き横山永璃(仲里依紗)との恋の成就が描かれた。このドラマにおける喜劇性の要は彼等二人にこそあると云うも過言ではなく、しかも二人は文句なく名コンビだった。しかし誰がどう見ても最高の名コンビであるにもかかわらず両名の仲は容易には深まりそうにもなかった。なぜか。その理由が今宵の話の核をなした。二人とも、ああ見えて自分に自信がなかったのだ。こう要約すると余りにも単純に聞こえるだろうが、普段の両名の騒々しいまでの明るさを考えると、二重の意において、いとおしい。
だが、相田舞(深田恭子)率いる皆の支援の甲斐あって両名の両思いが恋として成就した瞬間、このドラマ世界における均衡が崩れた。叶夢に対する水木一樹(中村蒼)の片想いが、もともと万に一つもなさそうだった成就の可能性を、ここにおいて完全に断たれたのだからだ。
もちろん一樹は、叶夢が無類の女好きであることをよく知っていた。そして叶夢が多くの女子に告白してはフラレ続けてきたのを見てきて、恐らくは女子たちの見る眼のなさに憤ってもいたろう。だが、反面、女子たちの見る眼のなさに安心してもいたのかもしれない。なにしろ叶夢の魅力を知るのは自分一人だけであるとさえ思い込んでいられたはずだからだ。敢えて乱暴に云ってしまえば、叶夢が女子にフラレ続ける限り、叶夢は大親友「カズ」のものであり続けているに等しかったのだ。
一樹には、叶夢に関して恐れていたことがあった。叶夢に対して片想いを抱いていることを叶夢に見破られ、気持ち悪がられ、嫌われて、永遠の別れを告げられることを恐れていたのだ。毎回よく悪い夢を見る彼が今回の話の中で見た悪夢がそれだった。反面、叶夢がこの恋心を理解して受け容れてくれることも、期待していなかったわけではないと思しい。四限目ではその辺も描かれた。ところが、叶夢と永璃とのカップル成立によってその可能性は完全に消えてしまったと一樹は感じた。それで呆然としていた。
ここにおいて一樹に一大決心をさせたのは見城瞳(朝倉あき)だった。否、正確に云えば、瞳と真行寺夏芽(三浦葵)との関係だった。
一樹は、瞳に対する真行寺の思いが叶夢に対する彼自身の思いに類比的であることを知っている。だが、先週ここに書いたように、実は一樹に対する瞳の思いも同じく類比的なのだ。先週の五限目の時点で一樹はそのことに全く気付いていなかった。しかし今回、瞳と真行寺との会話を図らずも立ち聞きしたことで、そのことを知った。そして彼は、瞳に交際を申し込んだ。
なぜか。
瞳を呆れさせていた一樹の「優しさ」が、ここでも発動したと見ることもできるだろうし、叶夢への恋に破れた今の彼にとって新たな相手を見つけることが不可欠だったのも確かだろう。瞳からも「叶夢に代わる新たな恋人を見つけたらどうか?」と云われていたのだ。そのときは、まさか瞳自身が当の「新たな恋人」になりたがっていようとは一樹には思いも寄らなかったわけだが、今や、瞳のあの軽口の奥に悲痛にも真剣に、事実上の告白の意が込められていたに違いないことを悟るに至ったはずだ。
もっとも、彼が常々、叶夢に「ホモ」であると見抜かれて嫌われることを恐れていたらしいことも踏まえるなら、叶夢との友情を永遠に壊さないためにも、彼には女子の恋人が必要だったのかもしれない。だが、そうした打算を抜きにして、一樹は、瞳との間の友情を一つの愛として育ててゆく可能性も、かすかに見てはいなかったろうか?とも想像してみたい。なにしろ彼は今まで何年間も、叶夢に対する恋心を、あくまでも男同士の友情として切り替えて、大切に育ててきたのだ。相田舞は叶夢に対し「女の子にとって一番感じる場所は(胸ではなく)心だよ」と教えたが、この教えは一樹のこの決意にとっても大きな激励になったのかもしれない。