新番組=月九イノセント・ラヴ第一話

今宵からの新番組。
フジテレビ系。月九ドラマ「イノセント・ラヴ」。
脚本:浅野妙子。音楽:菅野祐悟MAYUKO。主題歌:宇多田ヒカル「Eternally-Drama Mix-」。プロデュース:中野利幸。演出:加藤裕将。第一話。
インターネット上の語に「釣」とか「釣り糸」とか云うのがあるが、恐らく、この新ドラマには釣り糸が満ちている。脚本家がもし「仮面ライダー電王」におけるウラタロスであれば「釣られてみる?」と云うところだろう。ゆえに視聴者としても存分に釣られてみるのがよさそうだ。
手始めに先ずは各登場人物に添えられた文字を確認しておこう。番組の開始を告げる主題歌の流れるとき、伴われる映像には主要な登場人物の姿が現れ、それぞれに英単語がそれぞれ一つ書き添えられているのだ。
秋山佳音(堀北真希)には「destiny」(宿命)、長崎殉也(北川悠仁[ゆず])には「memory」(記憶)、遠野聖花(内田有紀)には「betrayal」(背信or露顕)、瀬川昴(成宮寛貴)には「denial」(拒絶or否認)、秋山耀司(福士誠治)には「sacrifice」(犠牲)、池田次郎(豊原功補)には「disclosure」(公表)、そして桜井美月(香椎由宇)には「jealousy」(嫉妬)。
瀬川昴の「denial」と桜井美月の「jealousy」が何れも、長崎殉也と遠野聖花をめぐるものだろうことは見易い。
ここでは瀬川昴について分析してみよう。長崎殉也の親友である瀬川昴は、クリスマス間近の夜に彼の許に現れ、「クリスマスの夜、幾人かの美女たちとともに船上で宴会を開催するので是非とも参加して欲しい」旨を伝えた。あたかも遠野聖花のことを忘れさせようとするかのように。長崎殉也は同居中の恋人、遠野聖花のことばかりを何時も考えている。当然、クリスマスの夜には遠野聖花と一緒に過ごさなければならないので彼がこの船上の宴会に参加することはない。ところが、長崎殉也は、宴会それ自体にこそ興味を示さないものの、その宴会に出席するのが瀬川昴によって選び抜かれた美女たちであると云われた点にだけは興味を示した。そして云った。「昴の好みのタイプ見てみたいと思ってさ」。この言の含意は明白。長崎殉也は親友として付き合いの永い瀬川昴の「好みのタイプ」をこれまで全く知らなかったということに他ならない。あんなにも女子たちに大モテの瀬川昴が、実は女に興味ないのではないか?と推測するのも決して不自然ではないだろう。そうであれば長崎殉也の来ることのなかった船上の宴会の席上、自ら選び抜いたはずの女子からの誘いを直ぐに「拒絶」して、「ごめんね、オレ、好きな人いるんだ」と云った瀬川昴の、その「好きな人」が長崎殉也その人だろうことも自ずから推察されよう。しかるにそうであるなら彼が美女からの誘いを「拒絶」するのと同じく、彼もまた、片想いの相手から「拒絶」されるだろうことも予想されるところだろう。
桜井美月の片想いの相手が長崎殉也であるのは現時点でも確実で、ゆえに遠野聖花に対して「嫉妬」に燃えていることは間違いない。しかるに鉄仮面のように端正な顔のこの女、義道神父(内藤剛志)との会話の中で奇妙なことを口走っていた。己の実らぬ恋が間もなく一転、願い通り成就するはずであることを確信しているかのように語っていたのだ。己の恋路の障害物としての「嫉妬」の対象が間もなく消去されることを確信しているのだろうか。この女が時々見せる怖い表情も注目に値しよう。
遠野聖花については、テレヴィ雑誌における新ドラマ紹介の記事では「天真爛漫」だとか「自分勝手」だとか「殉也を振り回す」だとか記されてあるが、なるほど、その通りなのかもしれない。なぜなら所謂植物状態だからだ。長崎殉也の豪邸の奥の開かずの間に籠ったまま動かないが、長崎殉也を完全に拘束し「振り回」し続けている。しかし今宵のこの第一話の最後、謎の寝室内に籠っているこの女の姿が初めて画面に登場する際の演出、ことに視聴者の恐怖感を煽るかのようなカメラの動きは云わば一寸したホラー映画のようでさえあった。
主人公についても触れておくべし。
獄中の秋山耀司が、面会に来た妹の秋山佳音から近況として横浜への転居や新たな恋のことを聞いて別れたあと、夜中に目を覚まして発狂していたのはどういうことだろう。両名の間には重大な秘密があるのかもしれない。その秘密は彼自身に関することであるのか、それとも妹の側に関することであるのか。そもそも、この妹の秋山佳音は一見あたかも健気な薄幸の少女のようではあるが、実のところ、かなり不気味な人物でもある。見ず知らずのアカの他人の幸せそうな姿を次々に盗撮してそうした写真を収集しては自室に飾るという癖が不気味ではないはずがない。