渡る世間は鬼ばかり第二十九話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:竹之下寛次。プロデューサー:石井ふく子。第九部第二十九話。
大井精機株式会社は、精密機器を製造し販売して、その性能によって世界的に注目されていて、莫大な利益を上げているらしい。それを一代で築き上げたらしい有能の社長、大井道隆(武岡淳一)の夫人、有閑主婦の大井直子(夏樹陽子)は、長女である大井貴子(清水由紀)の交際相手、小島眞(えなりかずき)を、娘の結婚相手としても、夫の社長秘書としても高く評価しているが、反面、彼の実家である小島家ラーメン店「幸楽」経営者の小島家に対しては強烈な軽蔑の念しか抱いていない。殆ど身分差別と云うに近い(もちろん語の本来の意味において身分の差があるとは云えない)。
小島家の人々をあれだけ強烈に馬鹿にしておきながら、そこの長男である小島眞のことだけは、どういうわけか、あんなにも高く評価し、娘の交際相手として、さらには将来の婿として、会社の後継者として熱烈に歓迎するとは少々奇妙に映ることではあったが、今回ついに、その謎が解き明かされた。大井直子は、小島眞が東京大学の学生であり間もなく卒業すること確実であることにこの上なく魅力を感じていたのだ。
大井精機の社員の中に、東京大学を卒業した者が現時点において一人もいないだけではなく、そもそも東京大学の卒業予定者や卒業生が就職を希望して入社試験を受けに来るようなこと自体が、これまでは一度もなかったらしい。創業以来初の、そして唯一の、この会社への就職を希望する東京大学卒業予定者が小島眞だった。大井直子は、大井精機という新興の会社に箔をつけるためには東京大学という老舗の「ブランド」の威力が有効であると考えて、小島眞を歓迎していたのだ。小島家に生まれ育った一人物を高く評価しているのではなく、東京大学の歴史的な名声を、欲求していたに過ぎないということなのだ。なるほど肯ける話ではあるが、残酷だ。