渡る世間は鬼ばかり第三十話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第三十話。
神林常子(京唄子)と神林清明愛川欽也)との関係の悪化について本間日向子(大谷玲凪)が全く理解できていない様子であるのは、視聴者にとっても誠に肯ける。
常子が愛する夫を敢えて遠ざけなければならなかったことの、このドラマの制作者にとっての必要性についてであれば、理解できないわけではない。常子が身体の自由を失って、それでも神林清明に面倒を見てもらうのを拒否することにでもなれば常子の長男の本間英作(植草克秀[少年隊])が母を引き取ることになるのが殆ど必然であり、そうなれば英作の妻の本間長子(藤田朋子)は、夫とともに義理の母と一緒に生きるべきか、それとも夫と離婚してでも義理の母の介護の重荷から逃れて、父の保護下、実家で安楽に生きるかの二者択一を迫られるのも必然だった。しかし英作を婿として気に入っている岡倉大吉(宇津井健)が娘に離婚を許すはずがないし、「嫁の責任」を放棄し、体の不自由な義理の母を見捨てることを許すことはもっとあり得ない。要するに、これまで実家に居座って、何時までも父に守られて、あらゆる社会的な責任を免れて世間知らずに我侭三昧に生きてきた長子に、現実の厳しさを少しでも思い知らせるためには、常子を神林清明から切り離しておく必要があったのだ。
だが、それは所詮はドラマ外の事情だ。ドラマ世界内に生きる人々の与り知らぬ云わば「神の意図」でしかない。そしてドラマ世界内の人々の誰から見たとしても、常子の決意の意味はとても理解し切れるものではなかろうと思われる。日向子が子どもだから大人の心を理解できないのだ…というわけでは決してない。
他方、小島家ラーメン店「幸楽」では小島五月(泉ピン子)と大井精機社長令娘の大井貴子(清水由紀)とが意気投合。五月が再び善人化し、今や五月の新たな宿敵と化した大井直子(夏樹陽子)の悪人化はさらに進行したと云えるだろう。だが、大井精機社長夫人直子がどんなに悪人化して見えようとも、その精神を理解し切れないということは今のところはない。母とは本質的にあのようなものなのかもしれないし、或いはそもそも所謂女系家族の出身者であるのかもしれない。何れにせよ、悪人としての水準において五月の長女の田口愛(吉村涼)に比するならその足元にも及ばない。この女は、己一人の安楽のためには、子も夫も父も弟も弟の婚約者も、誰であれ、犠牲になるのが当然であると思っている。どんな些細なことであれ、己が周囲のために我慢することには我慢ならないが、その逆であれば当たり前のこと。そして人の心なんか踏み躙っても構わないと思っている。
田口愛に近いものを持ち合わせるのは意外に大井輝(大川慶吾[ジャニーズJr.])であるのかもしれない。将来は最低な男になる恐れがある。