ギラギラ第三話
テレビ朝日系。ドラマ「ギラギラ」。
原作:滝直毅&土田世紀。脚本:荒井修子。音楽:住友紀人。主題歌:GIRL NEXT DOOR「情熱の代償」。制作:ABC&テレビ朝日&ホリプロ。演出:池添博。第三話。
東京六本木のホストクラブ「Rink」において十年前のNo.1ホストで、今再びホストに戻った七瀬公平(佐々木蔵之介)と、三年前のNo.1ホストで現在は六本木「ATLAS」代表をつとめる現役No.1ホストの影士(阿部力)との勝負。
六本木「Rink」オーナーの園部有希(真矢みき)に対して新宿「ATLAS」会長の堂島文治(平泉成)が仕掛けた両名の勝負に、「銀座の将軍」と称される銀座のクラブ&和風ホストクラブ「琥珀」経営者の葛城大成(石橋凌)が唐突に介入した。葛城大成配下の銀座のホステス美波優奈(芦名星)の解説によれば、これは「Rink」と「ATLAS」の対立を激化させて共倒れさせることで漁夫の利を得る魂胆に発したものだった。
勝負の内容は、何れが真に優れたホストであるかを銀座ホステス界の総帥「レナママ」こと神宮司麗奈(古手川祐子)に判定してもらうというもの。だが、レナママも流石に只者ではない。両名に対し、判定者として自身の経営する銀座「TopLady」のNo.1ホステス「京香」を遣わすと予告した上で、実際には二人の「No.1京香」を派遣し、皆を撹乱したのだ。
勝負のためには手段を選ばないのが堂島文治率いる「ATLAS」の流儀。その手始めに、先週の第二話では影士が「Rink」ホスト衆の過半を引き抜いて大打撃を与えた。それが今回は一転、影士は公平との一騎打ちに必ずや勝つべく、恐らくは新宿の「ATLAS」本店から腹心の優秀なホスト集団を呼び寄せたのか、用の済んだ「Rink」から引き抜いた連中を一斉に解雇した。
ホストの半数を引き抜かれてしまい、現在「Rink」には元No.4(現在は暫定No.1)の冬真(夕輝壽太)のほか、レオ(松下幸司)、朔夜(CHIKARA)、涼(長町太郎)、葵(野澤剣人)、奏(有川良太)の六人しかない。公平は六人の個性を正確に見抜いて、彼等の接客の姿勢をそれぞれに高く評価しているが、そうは云っても流石に六人だけでは戦力が不足している。そこで公平の弟分の翔児(三浦翔平)は、少し前まで所謂「黒服」として一緒に働いていたことのある大親友の、そして今は翔児とは別の道を歩んでいて、黒服を辞めて工事現場で働いている市河健太(佐藤智仁)を、スカウトすることにした。
以上のような設定の上で物語が展開したが、それは数話を一話にまとめたかと思える程の激動の急展開でありながら一点の曇りもなく明快な話で、痛快で、泣かせ所もあるのに、それでいて傑作な描写が存分に盛り込まれて笑い所も満載だった。
レナママの判定は見事だったと云わざるを得ない。
二人の「京香」を前に、影士は先ずは何れが本物であるかを見極めた上で本物の「No.1京香」に最高の持て成しをして偽者にはそれなりの持て成しをし、他方、公平は何れにも最高の持て成しをしながらも、偽者の「No.1京香」=やや年配の「No.2早紀」には傷心を癒すよう努めた。「影士は本物を云い当てた」と聞かされた公平は、二人の年齢の差の問題から、何れが本物であるかを即座に見抜いていた上で、「どちらが本物か分かる?」と聞いてきた年配の偽者が恐らくは影士の店で偽者扱い、非「No.1」扱いをされて深く傷付いているに相違ないことを鋭く察していたのだ。
レナママから意見を求められた京香(三津谷葉子)が当然のように公平に一票を投じたのに対し、偽者「No.1京香」の早紀(小林恵美)が意外にも敢えて影士に一票を投じたのは深い。公平を「本気で気に入ってしまった」早紀は、「ありったけの愛情を自分だけに注いで欲しい」という思いから、「平等な持て成し」を「半分だけの接待」のようにさえ感じ、物足りなく思えてしまった。それで早紀は本意に反して、敢えて、早紀を蔑ろにしてまでも本物の「No.1」京香にだけ最高の持て成しをした影士を選んだ。レナママはその複雑な思いを見逃しはしなかった。
時代の移ろいゆく中で無数の人々の「浮き沈み」を、盛衰を、否、無惨な没落のドラマを見詰め続けてきた「銀座の女王」レナママが、自らの判定を受けた公平と影士を前に、店に来る全ての客に対してはそれぞれにどんな事情があろうとも平等に扱わなければならないという開店以来の己の信念を語る場面には、重みがあったし、なかなか泣かせるものがあった。
翔児と市河健太の喧嘩も面白かった。健太が病弱の母と一緒に住んでいる団地の近所の公園での喧嘩だったわけだが、これがどこかの倉庫での喧嘩であったなら「ごくせん」と見分けが付かなくなるところだったろう。母親思いの健太は、母に借金を押し付けて失踪した父を許せなくて、女を騙すような職業であるホストを軽蔑していたが、翔児が公平という「おっさん」を心から尊敬し、女を騙さないホストもいると主張するのに耳を傾け、翔児を信じて「おっさん」を信じることにした。健太が源氏名を「秀吉」にしたのは母親思いということなのか。この秀吉の母も一寸凄かった。秀吉=健太は、黒服を辞めて以来、母の眼から見て元気がなかったらしいのだが、ホストを軽蔑する健太とホストの公平を尊敬する翔児が公園で殴りあいの喧嘩を始めたとき、止めようとする公平を健太の母は止めて、「あの子の、あんなに生き生きした顔、久し振りに見ました」と喜んだのだ。もちろん、多分、正確には、殴り合いをしていること自体を喜んだのではなく、このところ元気のなかった吾が子にも翔児みたいな元気な大親友がいるということ、そして大親友と本気で打つかり合うことができていることを喜んだのだろう。
結論として、翔児と秀吉の名コンビが楽しみということで。
翔児は、健太を口説き落とす過程で、健太の居住する団地の公園で事情通の老婆に話しかけ、最近の健太と市河家の状況について聞いた。その老婆は翔児に職業を訊いて「ホスト」と聞くや、「ああ、郵便の!」と応じて、翔児からは「それ、ポスト」と突込みを入れられていた。それなのに結局、翔児は仲違いをしている自身の父親に手紙を書いて、あろうことか、それをポストに投函していた。やはりポストだったのか。
レナママからの使者を喜ばせるため、公平から「盛り上げてくれ」と頼まれていた翔児は下手な手品を披露したが、大失敗。このときの早紀の反応にも注目しよう。ホステス経験の豊富な早紀は、まだまだ若い翔児の失態の数々を優しく見詰め、拍手もしていた。とはいえ他の若い女性客たちは大ブーイング。危機的な事態。それを救ったのは冬真や朔夜をはじめとする元イーグル派のホストたち。カンカン娘に扮して大いに踊り、冷え切った店内を一気に熱くした。ここでは「Rink」マネイジャーの深見久明(田中要次)に注目。カンカンを一緒に踊りたそうにしていて、有希からたしなめられていた。
公平によれば、冬真は富裕の客の気に入られる謙虚なホスト、朔夜は後輩ホストを適切に導くことができて面倒見のよい兄貴肌のホスト、レオは客の話を親身になって聞くことができて愚痴をも辛抱強く聞き続けることのできるホスト。深見マネイジャーとの会話の中で公平がそのように語るのを盗み聞いた三人は、同じ日の夜、他の三人をも巻き込んで、レナママの使者の接待のため、カンカン娘に扮して公平と翔児を助けたわけなのだ。助けてもらった翔児が調子に乗って六人衆から一斉に突込みを入れられていたのも面白かった。彼等の捨て身のサーヴィスを見せられたあとだからこそ、公平の「ボロは着てても心は錦」という言葉が圧倒的な説得力を持った。