スクラップ・ティーチャー第四話

日本テレビ系。土曜ドラマ「スクラップ・ティーチャー 教師再生」。
脚本:江頭美智留水橋文美江。音楽:吉川慶&Audio Highs。主題歌:Hey!Say!JUMP「真夜中のシャドーボーイ」。プロデューサー:櫨山裕子&内山雅博。制作協力:オフィスクレッシェンド。演出:佐久間紀佳。第四話。
先週の第三話も面白かったが、今週のはさらに面白かった。率直に云って、第一話と比較するなら別の作品かと見違える程の高水準だったようにさえ思われる。
城東区立第八中学校の2年D組の教諭、杉虎之助(上地雄輔)と、生徒の一人である久坂秀三郎(中島裕翔)の二人は、学校、学級におけるそれぞれの役割を明確化しつつある。杉先生は生徒たちを信頼し、期待に少しでも応えようと頑張っているし、久坂は杉先生と一緒になって学級内の皆を仲間として信頼し、学級内の問題を解決し、学校生活を楽しくしようと頑張っている。久坂は元来そのような少年なのだ。真面目で、しかも熱血の男子。杉先生が来る前からそうだった。彼にとって杉先生は待望の熱血教師だったのだ。
杉先生が来る前、久坂は教室内で孤立していた。熱血は空回りし、一部の不真面目な男子連中からは鬱陶しがられ、苛められてもいた。久坂は杉先生の理解者の一人だが、それは久坂にとって杉先生の方こそが自身の理解者に違いないと確信できるからなのだ。実際、杉先生が着任し、久坂の情熱的な信頼と期待を受け止め、久坂とともに頑張ってきた中、久坂と杉先生の二人三脚の熱血、熱意は次第に学級中に広まりつつある。
とはいえ二人だけの努力で何とかなっているわけでもない。非常勤講師という名の不遇な「ハケン」教師、滝ゆう子(加藤あい)の神出鬼没、縦横無尽の後方支援の力は大きい。滝先生と名コンビを構成している高須久公(八嶋智人)の現実的なバランス感覚も、時には必要だろう。
だが、何と云っても今回の話では、運動の苦手な木ノ内誠(伊藤誠)が、あくまでも自分自身のためにマラソン大会で頑張りたいと決意したことが大きかった。そして久坂だけではなく他の幾人かの生徒たちも彼を助けるために立ち上がった。少なくとも今回の話では、杉先生も久坂も空回りなんかしてはいなかった。広がった仲間たち皆が二人を空回りさせなかったからだ。
そうした中で、謎の転校生、「スーパー中学生」高杉東一(山田涼介)、吉田栄太郎(知念侑李)、入江杉蔵(有岡大貴)の三人組の役割も大きく変化してきた。正直なところこれまでの三話において彼等の驚異の力は問題の解決に本質的には関与していなかった感があるが、今回は違った。
吉田と入江は久坂と一緒になって木ノ内のトレイニングを盛り上げた。今や彼等は久坂と杉先生の仲間のようにさえ見える。木ノ内の家業を助けるため頑張る久坂たちを見詰める杉先生を見詰める吉田の顔は印象深い。
今なお久坂との対立を(表面上は)続けている高杉も、吉田と入江とは概ね別行動を取りつつも、吉田と入江の健全な方法とは違い、密かに一人過激に奔走した。杉先生を追放しようとする陰謀の存在を突き止め、それを実行しつつあった教頭の矢吹一(六角精児)に対し己の企ての犯罪性を自覚させるのに力あったばかりではない。マラソン大会の当日も、負傷して大いに遅れを取ってしまった木ノ内が、大会の開催時間が終了して交通規制の解除されたあとも久坂に見守られながら歩道を走り続けていたとき、高杉は警察の集団を率いて現れて、彼等二人のために路を作った。警視庁をも動かしてしまうとは高杉の権力は凄まじい。
矢吹教頭に働きかけて杉先生の追放を画策した松尾悟史(向井理)は、確かにこれまでも杉先生に冷たい態度を取り続け、嫌がらせもしてきた。警戒感を抱く余り、中華料理店やラーメン屋台にまで敢えて行動をともにすることさえあった程だ。意外なことに高須先生は杉先生に対する松尾先生の「セコイ嫌がらせ」に気付いていたらしい。意外に頼もしいのだ。
今宵の第四話では「目的のためには手段を選ばない」という言葉が三度も登場したが、その使われ方はそれぞれ違っていると云える。もともとは久坂が高杉の驚異の力を形容して用いた。これは彼なりの褒め言葉だった。吉田と入江が同じく高杉の力と思考を指してそう形容したのは、高杉への賞賛と驚嘆であると同時に久坂への共感でもあるだろう。他方、高杉自身は矢吹教頭の陰謀をこの言葉で表現した。生徒たちのために頑張っている杉先生を追放するため「捏造」の報告書が作成されているのを発見して、怒りと憎しみと蔑みを込めて呟いたのだ。同じ言葉が正反対の意味で用いられているところに言葉の迫力が表れていよう。
矢吹教頭のやろうとしていたことは許されないことだが、それは未然に防がれたわけだし、彼自身は許されて然るべきだろう。不図思うに、公立学校教員の人事の制度の理不尽ということが今回の事件の背後にあったことも見落とせない。学校現場で優秀な者ばかりが教育委員会事務局の本庁へ異動させられて教員とは名ばかりの役人に仕立てられ、或いは学校の管理職に登用されれば苦情処理をはじめとする雑用を背負わされ、こうして優秀な人材を現場から引き離してしまうような人事が行われ続ければ貴重な人材を徒に失うだけではないか。矢吹教頭は犠牲者だったのかもしれない。