月九イノセントラヴ第七話

フジテレビ系。月九ドラマ「イノセント・ラヴ」。
脚本:浅野妙子。音楽:菅野祐悟MAYUKO。主題歌:宇多田ヒカル「Eternally-Drama Mix-」。プロデュース:中野利幸。演出:松山博昭。第七話。
遠野聖花(内田有紀)は所謂植物状態から覚醒した。しかし失われていた記憶が再生するためには一つ一つ段階を踏まなければなかった。先ずは聖花は、身の回りの世話をしてくれる秋山佳音(堀北真希)に対し、拒否反応を示した。見知らぬ女だからだろう。逆に、長崎殉也(北川悠仁[ゆず])には拒否反応を示さなかったのは、見覚えのある男だからだろう。ところが、聖花の記憶を呼び戻すべく殉也が思い出の写真をあれこれ見せた際、瀬川昴(成宮寛貴)を含めた三人で撮ったあの写真を見せるや、聖花の態度は一転、今度は殉也をも拒否し始めた。先には見覚えのある殉也を選んで佳音を拒否していたわけだから、それとの類比で考えるなら、今度は昴を選んで殉也を拒否し始めたことは既に明らかだったろう。恐らく佳音はそのことを微かに見抜き得ていたのではなかったろうか。真相は、聖花が昴その人に直に接したことで確定した。聖也は昴をかつて愛し、今も愛しているということ。現実を受け止めたくはなかったろう殉也でさえも流石に受け止めざるを得なくなる程にそれは明白な真相だった。今や聖花は、恋人でもないのに恋人気取りで執拗に迫ってくる怖い男として殉也を見ているに相違ない。だから服を着替えるときも殉也に手伝ってもらうのを強く拒んで、それよりはむしろ、同じ女である佳音に手伝ってもらうのを選んだ。関係は見事に逆転したのだ。
しかるに佳音は、殉也の未だ知らない真実をもう一つ知っているはずだ。昴の恋の対象が女ではなく男であるということ、しかも、その密かに恋焦がれる相手が恐らくは殉也であるらしいということを。
昴の居室で偶々聖花の遺書を見出した殉也は、聖花が殉也との結婚式の前日に多量の睡眠薬を摂取して倒れたのが自殺に他ならなかったこと、そして聖也に自殺を決意させた第一原因が昴に愛を「拒絶」されたことの絶望感にあったことを知った。もちろん殉也もまた聖花に愛を拒絶されていたわけだが、聖花を余りにも強烈に愛していた彼は、今、己が聖花に拒絶されていたことよりも聖花が昴に拒絶されたことを悲しんでいる。しかし佳音だけは解し得ているはずだ。昴が聖花を愛するはずがないことを。
そんなことを知るはずもない殉也は、聖花を喜ばせたい一心から、聖花を昴と二人きりにしてあげた。確かに聖花は喜んだが、昴にとっては迷惑この上ないだろう。そもそも女を好きにはなれないし、聖花はもともと古い付き合いの友人だったとはいえ、今や愛する殉也を苦しめる悪い女だ。それなのに昴は、抱き付いてきた聖花を、迷いながらも抱き締めた。そうするのが殉也の望みだからだ。殉也への純愛のゆえに彼は、愛しようもない女を泣く泣く抱き締めることを選んだのだ。
昴が殉也のことを思いながら聖花を抱き締めていたとき、殉花は聖花のことを思いながら泣いていた。聖花のため、そして恐らくは己自身のためにも。そして佳音は、殉也の悲しみを思い、殉也のために泣いていた。案外そこには聖花のための涙も、殉也のために、混じっていたのかもしれない。ともあれ甚だ気になるのは、果たして佳音が昴の苦悩をも想像し得ているかどうかという点なのだ。私見では、佳音は多分、昴のためには涙を流さず、むしろ殉也と同じく片想いで寂しい思いをしている己自身のために涙を流していることだろう。昴のことまで想像できる程の余裕はなさそうに思われるからだ。