月九ヴォイス第五話-頓知話としての

フジテレビ系。月九ドラマ「ヴォイス 命なき者の声」。第五話。
脚本:金子茂樹。音楽:吉川慶&Audio Highs。主題歌:GReeeeN「刹那」。プロデューサー:瀧山麻土香&東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:石井祐介。
東凛大学医学部法医学研究室では今回、何時になく学生たちに対し課題が出された。出題者は研究室の老いた研究職の技師、蕉木誠(泉谷しげる)。何年も前から毎年のように同じ課題を出し続けてきたらしい。それは一見かなりの難問で、解答を導き出すためには幾度も入念にデータ解析を試みなければならないように見えるが、実は、どんなに解析を試みたとしても解けない問題になっていた。なぜなら問題文それ自体が所謂「謎々」になっていて、真の解を得るにはデータ解析よりも頓知を要するからだ。実のところ出題者である蕉木自身の意図は、学生たちに正解を当てさせることにはなく、むしろ、どんなにデータ解析を繰り返しても出てくるはずのない正解を探求する過程で文字通りデータ解析を延々試みさせることにこそあった。それこそが法医学の専門知を獲得するために必要な修業であると信じるからだった。
なるほど、確かに石末亮介(生田斗真)も桐畑哲平(遠藤雄弥)も羽井彰(佐藤智仁)も必死にデータ解析を繰り返し試みていた。たとえ正解を導き出せなかったとしても、その技術的な訓練は決して無益ではなかったろう。彼等の中でも特に桐畑は普段から蕉木の作業場に熱心に通い、地道な専門知、技術知を取得しようとしている。五人の学生たちの中で少なくとも彼だけは着実に法医学の道を歩み始めているのではないだろうか。
対照的なのが主人公の加地大己(瑛太)。彼一人だけは何等のデータ解析も試みないまま、ただ問題文を器用に解読してそこに仕組まれた罠を読み抜き、あっさり正解を導き出してしまった。でも、それは云わば「謎々」に正解しただけの話であって、法医学的な知を獲得したことにはならない。確かに彼は天才であるかもしれないが、それはあくまでも「一休頓知話」とか「吉四六話」とかの類の、頓知における才でしかない。今回の話で云えば、彼は、相互に無関係としか見えない様々な対象を捉えた二三十枚の写真を並べて眺めただけで、それらには実は対をなす同数の写真があるのではないかということ、そしてそれら失われた対の写真を補い、適切に配列すれば、それらの全体が実は「シリトリ」になっているのではないか?ということにまで気付いたわけなのだ。凄まじい頓知の才を示していよう。この物語は加地大己の頓知話として見られるべきなのだ。