侍戦隊シンケンジャー第四幕

東映侍戦隊シンケンジャー」。
第四幕「夜話情涙川」。脚本:小林靖子。監督:諸田敏。
先ずは「よはなさけなみだがわ」という題の付け方を賞賛せざるを得ない。江戸情緒のある見事な題で、実によい。
今回は、「殿様」ことシンケンレッド志葉丈瑠(松坂桃李)が、外道衆に騙されて心身ともに傷付いた野球少年を元気付けるために、ほんの少しだけ優しさを見せた場面が味わい深かった。彼は侍戦隊の棟梁の家に生まれて既に正式に家督を継いだ「殿様」であり、「殿様」とは立法者であり為政者である以上、常に厳正に法と正義を執り行わなければならないが、法の支配にも時には「情」が必要になる局面もあり得るだろう。丈瑠の「情」は、野球少年の思い出の中の亡き祖父の姿をこの世に視覚化して一瞬だけ甦ったかのようにしてみせたに過ぎない。生き返らせたわけではない。それは外道衆も云っていたように不可能だろう。だが、怪我を治してやること位はできたのではないか。できたかもしれないが、そこまでの「情」をかけることは却ってよくないというのが「殿様」としての丈瑠の判断だったろうと思われる。軽率だった野球少年に鑑戒を与え、反省を促しつつ、もっと自身を高めてゆくよう激励するための策として、最善の道を選び抜いたものと見ることができよう。
近世武家社会において為政者は神話や歴史から教訓を得て己を厳しく律しつつ、民にも鑑戒を与えなければならなかった。民主主義社会において日常茶飯事の馴れ合いの政治腐敗は、封建社会においては許されない。丈瑠は確かに「殿様」の王道を歩んでいるのだ。
シンケンブルー池波流ノ介(相葉弘樹)がホームシックになり、それを誤魔化そうとしたのか、やたら周囲の世話を焼きたがり、何か相談したいことがあるのではないかと尋ね始め、終いには城内の黒子たちにまで悩み事が何かないかを聴いて回っていたのも面白かったが、そんな彼を励まそうとして料理を拵えるため厨房に入ったシンケンピンク=白石茉子(高梨臨)の凄まじい技の数々に、丈瑠とシンケングリーン谷千明(鈴木勝吾)がともに恐れ戦いていたのも面白かった。このときの丈瑠は「殿様」ではなく、千明と同じく普通の男子に見えた。シンケンイエロー花織ことは(森田涼花)は茉子の料理をする姿に感動していたが、料理をさせると似たような事態になるのかもしれない。