月九ヴォイス第十話

フジテレビ系。月九ドラマ「ヴォイス 命なき者の声」。第十話。
脚本:金子茂樹。音楽:吉川慶&Audio Highs。主題歌:GReeeeN「刹那」。プロデューサー:瀧山麻土香&東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:松山博昭。
石末亮介(生田斗真)の父である石末総合病院長の石末貴之(名高達男)は、少し前までは冷徹な人物のように描かれていたが、この第十話では、救いようのない水準の馬鹿さ加減を露呈するに至った。先ず(一)彼は、医療ミスを犯したことを明らかにするため大々的に記者会見を行い、その席上、カルテの改竄までも犯していたことをも認めた。だが、確かにカルテの改竄は事実ではあるにせよ、医療ミスは事実ではなかった。医療ミスなんか犯してもいないのに、あたかも犯したかのように発表したのだ。吾が子の前で恰好付けておきたかったのか知らないが、犯してもいない罪を認めて、多分やがては自身の経営する大病院を倒産の危機に追い込み、多くの医師や看護師を路頭に迷わせることになるわけだから、実に愚かだ。
もっと深刻なのは(二)、彼が実は、永年の友である患者から頼まれたとはいえ安楽死を施していたという事実。無論これは殺人罪に問われよう。彼の犯した罪は、医療ミスどころか、殺人だったのだ。愚かだ。その事実を吾が子や加地大己(瑛太)や患者の遺族の桜井瑠美子(麻生祐未)に対して打ち明けたあと自ら警察に出頭したのは当然ではある。
だが、石末院長を上回る馬鹿さ加減を見せているのがドラマ制作者であるのは云うまでもない。何時ものように加地大己の大胆推理をドラマの中心に据えておいて、何となく美談のような、一寸泣ける話のような感じに味付けをしておけば大丈夫!と思っていたのか知らないが、こんなもの、どう転んでも美談になりようもない不条理の怪談話でしかない。
医療における倫理や法、安楽や尊厳の問題を取り上げる覚悟がわずかでもあるなら兎も角、そうした考えも何もないのであるなら、このような重く難しい主題を軽率に扱うべきではないだろう。このドラマの馬鹿さ加減には、怒るのを通り越して笑うしかない。逆に云えば、こんなにも笑えるドラマはない。月九新喜劇とでも名付けるべし。