旅行記二-東京国立博物館

五連休の四日目。旅行記二。
朝九時頃にホテルから外出。上野恩賜公園へ。行き先は東京国立博物館。平成館で開催中の「興福寺創建一三〇〇年記念 国宝 阿修羅展」を観照するため。大混雑で殆ど何も見えない事態が予想されたものの、今回は招待券を携えてきたので何も見えなくとも諦めがつく…と思いつつ平成館へ行けば、九時半の開館の殆ど直後に来たにもかかわらず玄関前には既に行列ができていて入場制限が実施されていた。待ち時間は三十分間とのこと。でも思いのほか早く入場できた気がする。第二会場へ先に入ったところ流石に開館直後だったからか人が少なく、多くの仏像を存分に観照することができたのは幸い。そのあと第一会場へ入れば当然ながら大混雑。大抵のものは見ることができない有様。第一会場の最後にある阿修羅像も遠くから眺めるしかなかったが、幸い、望遠鏡を携えてきたので或る程度は細部まで観照できた。会場をあとにして渡り廊下で本館へ移動。
近代美術展示室には、島崎柳塢筆「美音」大幅のほか、塩川文麟筆「嵐山春景」、橋本雅邦筆「竹林猫」、速水御舟筆「萌芽」、下村観山筆「春雨」六曲屏風一双、チャールズ・ワーグマン筆「かね子夫人像」、安井曽太郎筆「自画像」、中沢弘光筆「霧(裸婦)」等が出ていた。島崎柳塢の繊細優美な写実表現と、塩川文麟の情趣の豊かで広々とした空間表現には特に見入った。安井曽太郎の巧さにも改めて驚嘆した。
十一時半頃に本館を出て、東洋館の横にある精養軒で昼食。
東洋館では主に中国書画を見るつもりだったが、折角なのでガンダーラ仏をはじめ各地域各時代の展示物を一通り観照した。中国書画室では顔真卿の書が多く出ていた。唐の玄宗の書も見事だったように思う。
再び本館へ入り、地下の売店で買物をしたあと、二階の各展示室と企画展示室、一階の各展示室を一周した。
宮廷美術展示室には、天下の名宝、「佐竹本三十六歌仙絵巻」断簡の一「小野小町」(重要文化財)が出ていた。なるほど、桜に因んだ絵でもあるのだ。「色みえで移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける」。禅宗展示室には一休宗純筆「一行書」や吉山明兆筆&健中清勇賛「白衣観音図」等。楊月筆「四季山水図屏風」の楼閣や人物を特に楽しんだ。障屏画展示室で一番の見ものは狩野山楽筆「車争図屏風」。書画展示室には大和絵の土佐派、住吉派の作が多く出ていた。板谷桂舟筆「源氏物語図(初音・胡蝶)」は美麗、住吉具慶筆「伊勢之図」も印象的だったが、高嵩谷筆「藤花見図扇面」と長谷川雪旦筆「金魚図扇面」が小品ながらも大いに楽しめた。土佐光祐筆「栄花物語図屏風」は、全体としては著色画である中で一部が白描画みたいになっていた。
企画展示室では、恒例の平成二十一年度「新指定国宝・重要文化財」の公開が行われていた。国宝、与謝蕪村筆「紙本墨画淡彩夜色楼台図」が出ていなかったのは残念。絵画之部では、重要文化財、「紙本白描東大寺戒壇院扉絵図」、「紙本白描時代不同歌合絵」、藝愛筆「紙本墨画淡彩山水図」、「紙本著色白衣観音図」、岩佐勝以筆「紙本墨画淡彩弄玉仙図」、伊藤若冲筆「菜蟲譜」が出ていた。彫刻之部では、重要文化財、康音作「木造天海坐像」が、あの徳川家康と秀忠と家光の三代の将軍に春日局とともに仕えた天海和尚の像であることから来る威力もあって、圧倒された。
古文書之部の重要文化財は「慈円自筆書状」等。同じく重要文化財の「忽那家文書」(百十三通)九巻は愛媛県所在の史料。考古資料之部の重要文化財鹿児島県広田遺跡出土品には貝殻で拵えた原始古代のアクセサリーがあり、興味深かった。歴史資料之部の重要文化財、映画フィルム「紅葉狩」は昭和二年のフィルムだが、内容は明治三十二年に撮影された歌舞伎の映像。出演者は市川団十郎尾上菊五郎というから、あの「団菊左」の団と菊のことか。伝説の名優の演技が映像で残されていたとは凄い。ちなみに東京国立近代美術館フィルムセンターの所蔵。
夕方五時十分頃に東京国立博物館を出て、次に国立西洋美術館へ。昨日は常設展示室を見ることができなかったので昨日購入の企画展入場券を提示して観覧。夜七時半頃に見終えて館を出て、昨夜と同じく駅前のレストラン聚楽で夕食を摂ってからホテルへ帰った。