アイシテル-海容第五話

日本テレビ系。ドラマ「アイシテル 海容」。第五話。
原作:伊藤実。脚本:吉本昌弘。演出:久保田充。
事件について事実が一つ明らかになった。整理しておこう。(1)事件の加害者である野口智也(嘉数一星)は、母さつき(稲森いずみ)から常々、公園に居住する厄介者の老女の家には近付かないよう云い付けられていた。(2)しかるに或る日、好奇心から当の家を覗こうとしたところ落し物をしてしまい、しかもそれを当の老女に拾われてしまったことから、母の云い付けを破らざるを得なくなった。(3)老女は存外よい人だった。(4)しかも老女は、智也に亡き吾が子の面影を見出して愛し、心優しい智也も老女と親しく接した。(5)交流は数回に及んだ。(6)老女は、智也のような善い子を持つ母親は幸福であると云った。(7)或る日、老女は遂に智也を亡き吾が子その人であるかのように錯覚するに至り、智也を抱き締めたが、智也はそれを跳ね除けて老女の家を飛び出し、公園の噴水を横切るようにして逃走し、帰宅した。(8)智也が帰宅したとき母さつきは、智也を出迎えることもなければ帰宅に気付くことさえなく、無論その異変を察知するはずもなかった。
家庭裁判所調査官の富田葉子(田中美佐子)から以上のような事実関係を聞かされた母さつきは、智也が公園の噴水を浴びて全身濡れて帰宅したあの日、インターネット上の子育て相談サイト掲示板の閲覧等に夢中になっていた所為で智也の「S.O.S.」に気付かなかったことに思い当たり、後悔した。だが、どういう「S.O.S.」を発していたというのか。恐らく智也は、あの老女ではなく本当の母さつきにこそ抱き締めて欲しかったに違いない!というのが、さつきの想像するところのようだ。確かに、智也は老女を嫌悪していたわけではないし、老女もまた智也をまるで実の子のように愛していたわけで、従って智也にとって老女との関係は決して心地よくないものではなかったと思しい。それだからこそ、老女が本気で智也を愛し始めた瞬間、智也はそれを受け容れることが本当の母さつきを裏切ることに他ならないことを察し、心を痛めざるを得なかったのだろう。母さつきの云い付けを守らなかった所為で母さつきを裏切りかけていた智也は、母さつきとの絆を確かめたかった瞬間、現実の母さつきに冷たく突き放され、云わば裏切られてしまったのだ。