BOSS第十一話=最終回

フジテレビ系。木曜劇場「BOSS」。第十一話=最終回。
脚本:林宏司。演出:光野道夫。
警視庁刑事部参事官の屋田健三(相島一之)が単なる嫌な奴ではなく悪人でさえあることは既に第八話において描かれていた。だから視聴者にとっては、警視庁における裏金問題に幹部職員の影あり!とか警察内部にテロリストに通じた者あり!とか云われた時点で最も疑わしいのは屋田参事官に他ならなかったわけだが、このドラマでは、一旦は警察庁参事官補佐の野立信次郎(竹野内豊)が二つの疑惑の中心人物であるかのように描き、しかも警視総監(津川雅彦)が野立参事官補佐によって射殺されたかのようにさえも描き、野立参事官補佐もまた亡くなって「死人に口なし」の状況に至ったかと思わせたのちに、一挙に全てを覆して、結局は視聴者の期待通りの真相と結末へ至った。
今宵のドラマの前半が何時になく「シリアス」な場面で大部分を占められていたのが、この逆転の場を機に一気に変化したのも面白かった。
ところで、屋田参事官は全十一話の劇中に登場した場面の大半で、上司の警視庁刑事部長の丹波博久(光石研)と一緒にいて、両名はあたかも一心同体であるかのようにさえ見えていた。しかるに裏金を作るべく自ら悪事を働いていたのみならず革命を企てる悪の反政府組織と通じてもいたのは屋田参事官のみ。丹波部長は悪人ではなく、単なる嫌な奴だったのか。そして側近の部下の企てる巨大な悪に全く気付いていなかった以上、無能だったと云われても仕方なかろう。記者会見で混乱したとしても無理もない。
しかし不思議なのは警視庁刑事部捜査第一課特別犯罪対策室長の大澤絵里子(天海祐希)の立場だろう。官僚候補として出世街道を歩みつつあった大澤がそこから外された理由は明かされたとはいえ、警察庁屈指の人望と能力を有する野立の盟友であるのみか警視総監からも篤く信頼され期待されている程の人物が、組織内で全く見捨てられた存在になり果てるとは思えない。だが、この出世街道からの逸脱ということ自体が、敵を欺くために先ずは味方を欺くという作戦だったと考えてみれば事情は一変しよう。大澤自身はそのことを知らなかったとしても、警視総監と野立参事官補佐は最初からそのつもりで大澤を左遷し、海外へ研修に出したのではないか。そうであるなら警視総監と野立参事官補佐には第二の作戦の予定があるのかもしれない。なぜなら大澤を再び海外へ向かわせたからだ。
岩井善治(ケンドーコバヤシ)は高倉(反町隆史)率いるテロリスト集団「黒い月」の子分に撃たれて倒れ、一緒に行動していた花形一平(溝端淳平)に抱き起こされたとき、遺言として、「本命」が野立参事官補佐、「恋人」にしたいのが片桐琢磨(玉山鉄二)、「アバンチュール」の相手にしたいのが花形であることを明かし、花形に抱き締められていた。岩井がその後も花形の体を触り続けていたところを見るに、どうやら「本命」も「恋人」も殆ど諦め、最も手軽な「アバンチュール」で我慢しようとしつつあると思しい。