パルテノン・スキャンダル

帰宅後、スポーツクラブに行く予定だったものの、何となく読書。予て読みたいと思いながらも読み始めてもいなかった朽木ゆり子『パルテノン・スキャンダル-大英博物館の「略奪美術品」-』を読み始めたところなかなか中断することができず結局一気に読み終えるしかなかった。おかげでスポーツクラブには行けなかったが、有益な読書だった。
取り敢えず思うに、「人類の共通の遺産」とか「グローバルな価値観」とかの立派な語は列強による文化財の略奪を正当化するための言でしかないのかもしれないことを、充分に警戒する必要があるのは間違いない。
確かに、一つの巨大な美術館があらゆる地域のあらゆる時代の美術品・文化財を所有し公開することの学術的な、或いは教育的な意義は大きいだろうが、地元の人にとっては何時でも気軽に利用できるその有意義な「全人類のための博物館」も、遠く離れた外国の人にとっては一生に一度も見ることができないかもしれない代物だ。それが本当に「全人類のための博物館」と云えるのだろうか。大英博物館が主張する文化的価値のグローバリズムという思想それ自体には賛同できるが、人類の共通の文化遺産が今日においてもなお一部の列強の巨大な美術館に一極集中し続けてゆかなければならない理由を見出すことは難しいように思われる。
ちなみに大英帝国政府=大英博物館が略奪者エルギン伯爵からパルテノン彫刻群を購入した際の支払額は、現在の価値で約四億円だそうだ。わずか四億円!この金額では今や印象派の油絵さえも買えないかもしれない。こんな安い値段で、あの古代ギリシア美術の至宝パルテノン神殿の彫刻群の約半分を独占できてしまったのだ。

パルテノン・スキャンダル (新潮選書)