仮面ライダーディケイド第三十一話=テレヴィにおける最終回
東映「仮面ライダーディケイド」。
第三十一話「世界の破壊者」。脚本:米村正二。監督:石田秀範。
テレヴィ番組としての最終回にあたる今朝のこの第三十一話については色々思うところもあるが、その感想を記すのは後回しにして、先ずは、「通りすがりの仮面ライダー」こと仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)が、居候先の光栄次郎(石橋蓮司)とそこの孫娘の「夏みかん」こと光夏海(森カンナ)、そして途中から合流して同じく居候し始めた仮面ライダークウガ=小野寺ユウスケ(村井良大)とともに旅してきた複数世界に関する構造性について考察しよう。
事実関係の概要をまとめよう。第三十話では、仮面ライダーブレイド=剣崎一真(椿隆之)が出現し、仮面ライダーブレイド=剣立カズマ(鈴木拡樹)が消滅した。そして第三十一話では、仮面ライダー響鬼=アスム(小清水一揮)と仮面ライダーキバ=ワタル(深澤嵐)が消滅し、仮面ライダーキバ=紅渡(瀬戸康史)が再び出現して彼の仲間たちをも呼び集めた。剣崎一真も紅渡の仲間の一人だったのだ。かつて、仮面ライダー大戦の悪夢を描いた第一話において、門矢士に九つの世界への旅を命じた張本人は紅渡だったが、今や彼は、その旅の真の目的が九つの世界の仮面ライダーたちを打倒し、否定し、消し去ることにあったこと、しかるに消すどころか仲間になってきてしまった所為で却ってそれら九つの世界を相互に融合させて破壊する結果になったことを指摘し、ゆえに紅渡と彼の仲間たち皆で門矢士=ディケイドを打倒しなければならないことを宣告した。紅渡にとって否定されるべき九人の仮面ライダーとは門矢士が旅先で仲間になった九人であり、紅渡と彼の仲間たちは彼等とは姿こそ同じでも異質な存在であると判明する。
以上の事実関係から容易に推察されるのは、紅渡や剣崎一真の世界群から見るなら、ワタルやカズマやアスムの世界群は、云わば写像のような仮象に過ぎないということだろうか。だが、それを邪魔だと思っているわけでもなく、消去しなければならないと思っているわけでもない。なぜなら複数世界の融合と破壊を避けるために、門矢士を出動させたはずだからだ。世界群を破壊するのではなく、むしろ温存するために各世界内の仮面ライダーを消去する必要があったのだ。ここにおいて想定されるのは、相互に異質な二つの世界群の間に何らかの連動があるのではないか?という仮説だろう。十七世紀バロック時代の知の巨人ライプニッツの予定調和説ではないが、両世界群の間には、因果性の影響関係には因らない奇妙な並行性があるのではないだろうか。ワタルの世界が崩壊すれば紅渡の世界も危機に陥るような類の並行性、平行性が。
門矢士の使命は、写像の仮面ライダー世界を旅して回り、各世界の写像の仮面ライダーを打倒しつつ各世界それ自体を保存してゆくことにあったろうか。しかるに各世界における仮面ライダーはそれぞれの世界を侵略しつつある怪物を退治しようと日々奮闘していたのだから、各世界における仮面ライダーを打倒してしまった場合、それぞれの世界に対する怪物の侵略を、誰が止めるのか。放置するはずはない。ディケイド=門矢士が退治して廻るのか、それとも各世界に対する原像とも云える各世界の仮面ライダーたちがそれぞれ第二の世界でも活躍するのか。ここにも解き難い謎がある。
二つの世界群の間で、ディケイド=門矢士はどこに位置するのか。何れかに属するとは解し難い。何れかと云えば写像の世界への関係が深いだろうが、写像の世界群の一つに生きるのではなく、やはり世界群そのものを超越した位置に立つと考えるべきだろうか。原像の世界群の紅渡や剣崎一真が写像の世界群との関係を知り得たのも、恐らくは門矢士のような複数世界を超越して飛翔し得る存在を媒介にしてのことだったろうか。
ここで考えるべきは、予言者=鳴滝(奥田達士)の立場だ。彼は両世界群の何れに与するのか。彼は、辰巳シンジ(水谷百輔)の仮面ライダー龍騎の世界や剣立カズマの仮面ライダーブレイドの世界では彼等の敵対する怪物の側に与していたように見えたから、あたかも各世界における仮面ライダーたちの敵対者であるという意味において、紅渡や剣崎一真等の側であるかのように見えなくもない。加えて、ディケイド=門矢士がユウスケ等とともに各世界において難問を解決してゆく様子を見ては鳴滝が「おのれ!ディケイド」と悔しがっていたことも、今から見れば、ディケイドが写像の世界群の仮面ライダーを打倒せず仲間になってゆくことへの怒りに他ならなかったと解することもできる。同じ怒りを紅渡も共有していたはずなのだ。
だが、忘れてはならないのは、彼が第二十九話までは一貫してディケイドの敵であったこと、そして彼が何時もディケイドの先回りをして各世界を巡り、ユウスケやワタルやシンケンレッド志葉丈瑠(松坂桃李)等を相手に「ディケイドは悪魔」「ディケイドは世界の破壊者」と吹聴し、彼等にディケイドを倒させようと企てていたことだ。そして彼は、各世界の融合による破壊を最も恐れていて、それを阻止するためであれば宿敵の門矢士にさえも頭を下げるような男でもあるのだ。その点を重視するなら、むしろ彼は紅渡への敵対者であると見られよう。紅渡に敵対するから、紅渡から指令を受けて旅に出た門矢士にも敵対せざるを得なかったのであると解され得るのだ。
世界群に関して見落としてはならないのは、ユウスケの仮面ライダークウガの世界が写像の世界群の一つであるのに対し、仮面ライダーディエンド=海東大樹(戸谷公人)の世界が侍戦隊シンケンジャーの世界等と同じく原像の世界群の一つであるということだ。門矢士一行は写像の世界ばかりを旅したわけではなかったのだ。
ユウスケの特異性は、大胆に云ってしまえば、写像の世界の住人だったのが、世界の枠を超越する旅人と化した挙句、写像の世界の側から原像の世界の側へ転じた点にある。しかも死と再生とも経験したのだ。彼は、門矢士の最初の旅先である写像の世界の一つにおいて仮面ライダークウガとして生きていたにもかかわらず、鳴滝の使者キバーラ(声:沢城みゆき)に導かれて門矢士一行に加わったばかりか、大ショッカー幹部のアポロガイスト(川原和久)の攻撃を受けて殺害された上、吸血鬼としてのキバーラの力で復活したあとは、紅渡や剣崎一真の率いる原像の世界の側の存在に変えられたのだ。先週の予告編で見たユウスケのあの悪魔的な笑みは、その世界の壁を超越した変容の表れだった。仮面ライダー大戦の激流の中で最も翻弄されてきたのは、実はユウスケであるのかもしれない。想い起こせばキバーラは予てユウスケの血を欲していたが、その意図は彼をこのように門矢士への敵対者へ生まれ変わらせることにあったろうか。
だが、人類にとって迷惑であるのみならず宇宙で最も迷惑でもあろうとするアポロガイストの攻撃によって殺害される瞬間まで、ユウスケは門矢士を最も信頼する仲間だった。クウガ=ユウスケが攻撃を受けたのはディケイド=門矢士を庇ってのことだった。この瞬間のクウガ=ユウスケとよく似たユウスケの姿を、かつて芦河ショウイチ(山中聡)の仮面ライダーアギトの世界においても見たことがある。ユウスケと門矢士との間の絆を、吾等視聴者は最初の旅先としてのクウガの世界以来の歴史の中で確と目撃してきた。
その意味から云って、今朝の話で少々悲しかったのは、門矢士が、己が万が一戦死するようなことにでもなったとき、「夏メロン」ならぬ「夏みかん」等を託すことのできる唯一の仲間としてディエンド=海東大樹に語りかけたこと。無論ここで門矢士は光栄次郎ばかりかユウスケのことをも海東に託したのかもしれない。時空を超える能力の有無をはじめとする能力の点でユウスケでは頼りないのも確かだろう。だが、吾等視聴者は憶えている。門矢士とユウスケとの間の信頼関係が最も熱く深く確かめられたあの仮面ライダーアギトの世界において、変身できない生身の門矢士を容赦なく攻撃して殺害しようとしたのが他ならぬディエンドだったこと。そして門矢士を庇ったのが、敢えて変身しようとしなかった生身のユウスケだったことを。
ディエンド=海東大樹と門矢士との間には、門矢士が己に関する記憶を失うよりも前からの交際があったのかもしれないが、それについて吾等視聴者には何も知らされていない。
ともかくも今朝の話で最も悲しかったのは、テレヴィ番組としての最終回である今朝の第三十一話が実は物語の結末を描く話ではなかったことだ。結末は十二月公開の劇場版で明らかにされるとのことだが、まだ三ヶ月も先のことではないか。この物語に対する現在の関心や熱意を三ヶ月後まで忍耐強く持続させることができるかどうか。